2010年10月20日
“もしあの時、あっちを選んでいたら~” というのは 誰でも一度や二度は考える事。 この作品も「エロス」というタイトルですが、エロとは全く無関係で、「~もう一つの過去」というサブタイトルが示すとおり、パラレルワールドの物語です。
歌手として成功した女性が、ある雑誌の企画で“あの時、もし違う選択をしていたら”というアンケートに答えるところから物語は展開していきますが、ストーリーとしては案外と月並みです。 作者の広瀬正は 大正13年生まれで、日大工学部卒。ジャズサックス奏者で、戦後は 「広瀬正とスカイトーンズ」というジャズバンドを結成していたそうです。 この作品も 前作の「マイナス・ゼロ」も 昭和初期を舞台とし、庶民の生活や大東京市の繁華街の様子などが 生き生きと描写されており、そこが魅力のひとつともなっているのですが、その多くは 作者の実体験に裏打ちされているからこそ リアルに伝わってくるのでしょうね。 この作品には 「ポイント・ゼロ」とリンクする設定や場面があり、作者の遊び心に ニヤッとさせられます。 また、広瀬正というジャズ好きな中学生が登場しますが、まさしく作者本人がモデルなのでしょう。 後半、戦争に向かって突き進む日本の様子が 具体的に細かく描写されますが、内容、量ともに多く、正直、読み通すのに疲れました。 ただ、そこを乗り越えると 意外な結末が待っています。 “おお、そう来たか、やられたな”という感じです。 司馬遼太郎は この作品を直木賞に強く推したそうです。 確かに面白かったですが、直木賞を狙えるほどの作品ではないように感じました。 司馬は この作品のどこに そこまでの魅力を感じたのかな? (2010.10.18 読了)