2010年09月30日
先日、『義経』を読み終えた後で 司馬遼太郎の事をアレコレ見ていたら、司馬は 広瀬正をずいぶん高く評価していて、この作品も 直木賞に強く推薦していたという事を知り、読んでみました。 いつも行く古本屋には無かったので、オーロラタウンの紀伊国屋で購入です。
タイムマシンによるタイムトラベルの物語ですが、主人公たちは 初めて触るタイムマシンを上手く使いこなせず、自ら 苦境に陥ってしまいます。 31年昔にさかのぼった男は、元の時代に帰るのに 31年を要します。 36年昔にさかのぼった女は、元の時代に帰るのに 36年を要します。 その時間が 物語を生み出します。 一般的にタイムトラベル小説では 過去を変えてはいけないというような タイムパラドックスの問題が いろいろありますが、そうした様々なタイムパラドックスを どこまで厳密に考えるかというのは 作品により大きく差があります。 この作品では その辺はかなり緩く、それが物語に なかなか深い味わいを与えています。 昭和7年から 昭和38年という 第二次世界大戦を挟んだ昭和初期の時代を舞台に設定している事も 何となくノスタルジーを感じさせ、登場人物もやさしく気の良い人たちばかりで、ほのぼのとした暖かい作品となっています。 SFとして考えた場合、タイムパラドックスに対する考え方の差で この作品に対する評価も ずいぶんと違ってきそうな気がしますが、小説としては ストーリーもよく出来ていて、一気に読ませるだけの面白さがあります。 以前から 熱烈なファンが多い作家らしいですが、それだけの事はある と感じました。 (2010.09.27読了)