2017年09月20日
『蜜蜂と遠雷』 が気に入った人にはお薦めと聞き、紀伊国屋書店の店頭にもPOP付きで平積みしてあったので、読みました。 『蜜蜂と遠雷』 はピアノコンクールが舞台でしたが、こちらは演劇の世界を舞台にしています。 主人公は2人。恵まれた環境でエリート街道を歩んできた新進気鋭の女優、東響子と、ずぶの素人にもかかわらず驚異的な才能を持って登場した若き女優、佐々木飛鳥。人間味溢れる響子に対して、“演劇ロボット”とも揶揄される飛鳥。この二人を中心にテンポ良く進むストーリーは小気味良いです。 演劇の公演や練習、いくつかのオーディションでの役者や女優の真剣勝負が臨場感あふれる筆致で描かれており、実際に舞台を観ているような感覚で、ピンと張りつめた空気感、緊張感、緊迫感がビシビシと伝わって来て、グイグイと引き込まれます。 ただ、「そろそろこの辺りで、佐々木飛鳥なる少女がいったいどんな人間なのか、彼女の側から語っておく必要があるだろう」 という一文から始まる章は不要でしょう。 小説の流れを乱していますし、わざわざこんな章を設けなくても、流れの中で説明していく方法はいくらでもあるだろうに・・・ と思います。 しかも、わざわざ章を設けてまで説明した飛鳥に足りないもの、欠けているものに関しては、彼女の限界や脆さ、危うさとして指摘されるだけで、きちんと描かれていません。このままでは飛鳥が天才すぎて面白くありません。 本来は 『ダンデライオン』、『チェリーブロッサム』 の三部作の予定だったのが、諸々の事情により 続編が書かれていないのだとか。 確かに この作品はまだ序章という印象で、仮にあえて余韻を残す終わり方にしたのだとしても ラストは中途半端で 未完だと思います。この本で張り巡らした伏線をきちんと回収し、佐々木飛鳥が本当の壁にぶつかった時の挫折感と、そこから這い上がる姿が読みたいものです。 ところで、“チョコレートコスモス” という花は、茶褐色の色だけでなく 匂いもチョコレートに似ているのだそうです。一度、実物を手に取って、匂いを嗅いでみたいものです。 【追記】 お風呂に入りながら ふと思ったのですが、この 『チョコレートコスモス』 の続編が中途半端になってしまった (連載途中で雑誌が廃刊になってしまった) ので、舞台を変えて書きあげたのが 『蜜蜂と遠雷』 だったのかもしれませんね。
ブラコン2号
Re:『チョコレートコスモス』 恩田 陸
2017-09-21 09:17
「チョコレートコスモス」読んだばかりでーす。 なぜこのタイトルなのか…、最後の最後に突然出てくる感は否めない…。 内容も、なんだか人物や背景の深みが感じられず、表面的で、最終的にもまとまってないというか…。昔の恩田陸は、長編を書くとこういう風になっちゃってたのかも。 恩田陸の短編はスッキリとしていて面白いんだけどな~。 でも、「蜜蜂と遠雷」は大好きです。あれは良かったです。 きっと、主要人物をちゃんと深めるページ数と力量が作者に備わったから?なのかな……と思ったり…。 「チョコレートコスモス」は、10年程前の作品ですもんね。 因みに最近「不連続の世界」と「夢違」も読みましたが、どちらとも、きっちりと書けてるのか微妙な出来具合だった気がします。
青空
Re:『チョコレートコスモス』 恩田 陸
2017-09-21 21:37
ブラコンさん、こんばんは。 僕はブラコンさんの後で読みました。 僕も恩田陸からは しばらく離れていて、「蜜蜂と遠雷」で久しぶりに読みました。とても良い作品でしたね。 今回これを読んで、彼女の場合、長編がダメなのではなくて、長期連載が苦手なのではないか、という気がしました。以前に読んだ「きのうの世界」は1年間の新聞連載だったそうなのですが、あれも回収されないままの伏線が多く、ラストを含めて中途半端で終わっていました。 「蜜蜂と遠雷」は「チョコレートコスモス」三部作の為に温めていたアイデアを使って書いたので、構成にしても、ストーリーにしても、人物設定にしてもよく練られていたのではないでしょうか。それならそれで途中で終わった三部作にも意味が出て来ますね(笑)