2012年11月11日
ノーベル文学賞を受賞した中国人作家、莫言氏の作品です。 過激な性描写で発禁処分になったから興味があったという事ではなく(全く無かったと言えば嘘になりますが)、たまたま立ち寄った古本屋にあったのがこの作品だけだったので、この作品を読みました。
目次は、 第1章 日本鬼子がやってきた 第2章 抗日のアラベスク 第3章 内戦 第4章 最後の好漢 第5章 毛沢東の時代 第6章 惑溺のとき 第7章 発端あるいは神話 断章
舞台は高密県東北郷で最大の集落、大欄鎮。 主人公は上官家の1男8女の9人姉弟の末っ子、上官金童。 清朝末期をプロローグに、1937年に始まった支那事変、国民党と共産党の内戦、文化大革命、改革・開放政策へと続く時代の中で、その流れに振り回されるのは常に一般庶民。 金童の人生を中心に母親や8人の姉、その周辺の人物たちの波乱万丈で数奇な人生が 金童や一般庶民の視点で描かれますが、物語としても かなり面白い小説です。 後継ぎである男子を産まないことには いつまでも姑からイジメられる嫁。その嫁が種無しの夫との間に男子を産むために取った行動は、、、、 中国古来の習慣であった纏足に対する庶民の見方なども興味深い。 日本鬼子という言葉の他に、ドイツ鬼子という言葉も出てきて、庶民からすると敵は全て鬼子と読んでいたらしく、日本でいうところの鬼畜米英と変わらないよう。 貧困や飢えにあがく庶民は 生きるために娘を売らざるを得なかったというのは 昔の日本もそう。 どこの国でも生きるために必死な庶民の姿には通じるところがあり、共感できる部分も多い。 過激な性描写で発禁処分になったと聞いていましたが、実際はそうではないでしょう。 金童は女性の乳房に異常な執着を持つ男なので、女性の身体や性行為に関する描写はありますが、それほど多い訳ではありませんし、決して過激ではありません。 それよりも共産党が言ってきた歴史観と相容れない記述の方が問題視されたのではないかと思います。 日本軍の残虐さは描かれていますが、それと同じように共産党の残虐さや過ちも描かれており、共産党としては隠したい恥部を描かれたという思いでしょう。 共産党を直接に批判している訳ではありませんが、共産党が隠したい歴史も書いており、いろいろと拙い事があるのでしょうね。 ノーベル賞を受賞した時に、体制側の作家が受賞したという批判がありましたが、この作品を読んだ限りでは決して体制側という印象は持ちませんでした。