2012年10月22日
作者の有川浩(アリカワ ヒロ)は女性作家なのですが、「塩の街」、「空の中」、「海の底」、「クジラの彼」など、自衛隊を舞台にした小説、ライトノベルが多くあります。 この作品も舞台は航空自衛隊航空幕僚監部総務部広報室、つまり航空自衛隊の本社広報部で、主人公は交通事故に巻き込まれて大怪我をし、戦闘機パイロットを辞めざるを得なかった若者(29歳)です。 個性的な上司、同僚、テレビディレクターなどが登場して、話が展開していきます。
この小説では、自衛隊に対する批判や無理解、誹謗中傷に対してやんわりと穏やかに反論するような展開が度々登場し、自衛隊の実像を書きたいというメッセージ性を強く感じました。 自衛隊を肯定的に捉えた作品は 往々にして批判される事が多く、この作品にも“自衛隊のプロパガンダだ”などと 批判が寄せられているようですが、作者は その辺も充分覚悟の上で書いているようです。 込められたテーマは重いですが、有川浩らしく 読みやすい文章で、軽やかに展開し、サラッと読めます。 小説としての深みは今一歩という気はしますが、充分に面白いですし、自衛隊の一面を知る入門編として悪くないと思います。 本来は1年前に発売予定だったのが、3.11の大震災の影響もあって延期され、本編の後に「あの日の松島」という短篇が挿入されて、今夏発売されました。 この淡々とした短篇が思いのほか良いです。 本物の航空自衛隊航空幕僚監部総務部広報室のHPが“空飛ぶ広報室”というタイトルに変わっていて、驚かされつつ 苦笑いしたのは 余談である。