読書管見・小松成美『中田英寿 誇り』

2007年08月06日

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 小松成美『中田英寿 誇り』(幻冬舎、ISBN:9784344013391)
 
 W杯2006・ドイツ大会から一年とちょっと。中田英寿の引退の真相、大会中の代表に起こった出来事を綴ったノンフィクション。正月に読んだ『敗因と』とあわせて読んでおくのも良かろうということで購入。


 
 もちろんあわせて読むことの意味は、『敗因と』に出てこなかった中田英寿の言葉を読むことにありました。
 
(注意:ここから先は内容に触れています)



 で、読む前には「中田英寿側」に立った本書と中田の出てこない『敗因と』の読後感には大きな違いがあることを予想していたのですが、実際読み終えてみると、代表そのものに対する見方はほとんど変わりませんでした。本書が過度に「中田英寿擁護」に傾いていないからであると同時に、『敗因と』もまずまずニュートラルな視点から書かれていたんだなぁ、と改めて思った次第です。
 
 世間で言われているほど自己中心的ではないけれど、一度決めたら絶対に曲げない、という人物像は良く知られていることとして、私自身の新知見としてはマルタ戦のハーフタイムについてと左足の怪我、それとペルージャ時代のエピソードですね。「『福西を代えろ』と進言した」という噂はクロアチア戦のものだとばかり思っていましたし、ローマ移籍に至る過程にそんな困難があったとは知りませんでした。
 


 
 取材は大会を三ヶ月後に控えた2006年6月からスタートしていますが、最後の方で、ヨーロッパへの移籍から引退に至る過程とそれに伴う困難が綴られています。ノンフィクションの構成としては、これら過去のエピソードをW杯の進行とパラレルに綴っていくという手法もありだったのでは、と思います。クロアチア戦とブラジル戦の間にこの過去のエピソードが入っているのですが、ちょっと長すぎる。
 もう一つノンフィクションとしての本書について。作者の小松成美は中田英寿を10代の頃から取材してきた人です。といっても私は前作『鼓動』は読んでいませんが。とにかく彼女自身にとっても中田との関わりにおいて節目となる作品だったわけで、取材対象に対する思い入れが控えめながらもそこかしこに滲み出ています。
 この「対象への近付き方」ってのがノンフィクションを生かすか殺すかの分かれ目の一つだと私は思っていて、対象への愛情のないノンフィクションは読んでいて苦痛だし、一方で対象をべた褒めするのも辟易モンです。本書は、筆者自身の愛情・思い入れはちょっと勝ちすぎているんだけれど、文章にそれが過度に出ていないという、ギリギリのところでバランスが取れていると感じました。
 


 
 中田英寿個人に焦点を当てた本書よりも代表そのものを扱った『敗因と』の方がチームの内情を多角的に描写できており、彼個人にではなくドイツにおける代表について知りたいという方は後者だけでよろしい。中田本人に興味を覚えるという人はこちらをどうぞ。


post by tottomi

20:44

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