2006年03月15日
『THE 有頂天ホテル』(2005年日本/監督:三谷幸喜/136分)
時は<すべての人にとって特別な日である大晦日>。舞台は<迷路のようなホテル>。その中で<働くホテルマン>と<訳ありの宿泊客>が織りなす最高の奇跡-。(オフィシャルHPより)
「誰も見たことのない極上のノンストップエンターテイメント!」という触れ込みの本作。展開はかなりスピーディー。登場人物も多く、それぞれの人物に関わるエピソードが複雑に絡み合い、「怒濤のように」展開し、「大晦日のカウントダウンパーティー」に収斂してゆく、というのが監督の狙いだったのでしょうが、スピード感を求めるあまり、かえって一つ一つの場面の印象が希薄になっている感が否めません。(以下、ネタバレあり)
印象が希薄になってしまった原因は二つあるのではないかと思います。一つは核になる人物・エピソードが欠けている上に、一人一人の登場人物の心情描写が決定的に不足していたこと。「かつて舞台関係の仕事を志していたホテルの副支配人」(役所広司)が物語の中心に見えましたが、物語は別に彼を中心に回ってゆくわけではありません。あまりにも多くの人物を絡めようとして、そして彼らをスピーディーに動かそうとしすぎたのではないでしょうか。とりわけ客室係(松たか子)は何に悩み、何で吹っ切れたのか分かりません。冒頭、アシスタントマネージャー(戸田恵子)が副支配人のネクタイを直してあげる場面で彼女が同僚以上の感情を彼に抱いていることが示されたので、私はてっきりこの二人のエピソードが軸となって進んでいくものと思って観ていました。肩すかしをくらった気分です。
二つ目は、コメディタッチのヒューマンドラマを目指しているようですが、やはり私には「どっちつかず」という印象しか残りませんでした。感動させる場面の後に笑いを入れる。これはコメディでは王道と言える手法ですが、「しっかり感動させてからひと笑い、で次の場面に移る」というメリハリが利いていなかった気がします。これもスピード感を求めてのことでしょうが、いま自分は笑うことに集中すべきなのか、ストーリーと登場人物の心情を理解することに努めればよいのか、迷い続けたまま終わってしまいました。三谷さんの監督作品ではないですが、彼の舞台作品を映画化した『笑の大学』ではそこのところが非常に良くできていたので、本作品の中途半端さが余計残念です。ただ、『笑の大学』は基本的に二人だけの物語なので、このメリハリがつけやすいというのもありますが。
場面場面では笑えるところもありました。演歌歌手(西田敏行)がバスローブの腰ひもで死のうとするところや、気弱な筆耕係(ホテルの案内掲示などを書く人のこと・おだぎりじょー(注))が書く「謹賀新年」は笑いの王道的手法です。「受賞パーティー」で、カメラがパーンしてきたら案の定戸田恵子がシカのかぶり物してた、ってところも「やっぱり来た」と思った人は多いのではないでしょうか。
そう、コメディって笑うタイミングが予測できる構成になっている部分が多くないと笑えないんだと思います。だから上記の場面はちゃんと笑わせてもらいました。タメがあって、「ココで来るぞ~ホラ来た!」という。私が「吉本新喜劇」な世界で育ったからでしょうか。
話のスピードと観客の予測する速さとがミスマッチを起こしていたように思います。もうちょっとゆっくり笑わせてよ、じーんとさせてよ、三谷さん。
(注)「おだぎりじょー」:「意味はないけれどムシャクシャしたから」オリエンタルラジオが言ってた通りにひらがなにしてみました。
プロフィール
性別:男 年齢:30歳代半ば 出身:兵庫県西宮市甲子園 現住地:北海道札幌市 サッカー歴:素人。たまにフットサルをやる程度 ポジション:アウェイ側B自由席 2007/12:加齢に伴い年齢を実態に即した形に書き換えました
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