2005年12月05日
いつもは濁っている東京の空も、
冬の乾燥した日にあっては思った以上に眩しく、青い。
聞けば今朝は富士山がよく見えたそうだ。
しかし、意図せざる結果として通勤ラッシュを避ける事となった時間帯に、
自宅周りをようやく歩き出したような俺には、
富士山の見える場所まで行き、遠くを見る余裕も無かった。実に勿体無い。
駅までの道を、上司の小言と自分の言い訳と、今日一日自分が取るべき態度をシミュレートしつつ歩く。
ふと見ると、裏道の傍らに犬が一匹力なく立っていた。
すぐ横は小学校。グラウンドは町の中だけに物凄く狭い。
明日の苦労など無いだろう。いや、あるべきじゃない。
グラウンドでクラスの友達と鬼ごっこかなんかしてるのが楽しくて楽しくて。
というような声が聞こえてくる。
そこから壁を一個隔てた薄暗い道で、その犬は尻尾を股に巻き込んだまま、ただ佇み、動かなかった。
よくよく見れば、首輪が付いている。でも鎖は無い。
腹の周りは見たことも無いくらい切れ上がり、もうろくに飯も食ってない事が解る。
一瞬コンビニでなんか買ってきて、こいつにやろうかと考えた。
きっとガツガツ食べるだろう。きっと体力が回復し、前を向いて歩き出すだろう。
大体いかな犬とは言え、この寒さにこの痩せ具合では或いは今夜辺りもしかするかも知れない。
でも犬がついて来たらどうしよう。アパートは犬禁止だし。それ以前に千代田線が犬禁止だよな。
まいったな。ついて来ても飼えないし飼うつもりも無いぞ。
結局何もせずに電車に乗った。
申し訳ないと自分勝手に思ったが、情が移るとも言うので考えるのをやめた。
・・・・・
仕事が終われば当然帰る。
通勤通学バス電車タクシー自家用どんな状況であれ、東京の交通網には異常に人が多い。
それだけ人が居て、ようやく交通機関に黒字が出てると思うとなんだかなぁと思う。
これは個人的で勝手な印象だが、地下鉄に乗っている人の顔はみな一様に険しい。
山手線やらなんやらだとそれ程でも無い(特に新橋駅なんか凄い)んだが、
そう言った場所を歩いていたり、また地下鉄に乗ったりしていると、
こっちまで憂鬱な気分になる。
かと言って無理にニコニコしていると、
それはそれで周囲から浮いてしまい妙な視線を感じる事になる訳で、
全くもって狂った街だと思う次第である。
昼休みに同僚に「遅刻する理由?俺満員電車嫌いだから(卑屈笑)」
と冗談混じりに言ったら本気で呆れられた。
また一人友人を失った気がしたが、気のせいだと思いたい。
何せ俺の友人など、本来であればWWFが本気で保護すべき存在なのだから。
ともかくも、今日も夜も遅く気だるさと憂鬱に塗れて最寄の駅へ。
トボトボと歩く家までの15分。
空は夜なのに雲が見える流石東京。嫌になる。
放浪犬の事は、今これを書きながら思い出した。
目の前の事を一つ一つ片付ける。上役に仕事を急かされて嫌な気分になり、渋々渋々またこなす。
そんな終わらない日常に潤いと喜怒哀楽を与えてくれるシーズンが終わってしまった。
こんなに寂しい事は無い。
2005年11月13日
福岡に来たならば、やはり博多のラーメンは食べておかねばならない。
そう思い立ち、地下鉄福岡空港駅で地下鉄の一日乗車券を購入し
天神の向こう、赤坂に赴いた。
福岡の地下鉄一日乗車券は札幌で言うところのドニチカきっぷより
若干値段は張る(600円)が、初乗り料金が札幌の1.25倍なので
お得感で言えばこっちの方が多分あるのだろうか?
と思ったが、計算してみたら大した違いも無かった。残念。
閑話休題。
赤坂駅をおりると、よく解らん城址っぽい堀がある。
木々は色づき、秋の訪れを東京よりも強く感じる。
(すいとうとう。せからしか。よかろうもん。なんばすっとね。とんこつ。)
道行く人の会話から、色々な方言が耳に入ってくる。こういう事も遠征の楽しみだ。
10分も歩けば元祖ラーメン長浜屋に到着する。
店の前の駐車場には、普通の車に混じって
明らかにサイズオーバーな一台のコンボイ(上から排気する奴)が駐車されていた。
ガラガラ・・ カタ。 みっつ。ズズズ バリカタで。ふたつ。
ガラガラ・・・ 玉。ズズ 半分ね。 ガラガラ・・・
店に入ると謎の言葉以外は全く会話が無い。完全なるアウエー。
テーブルはビールケースを積み上げた上に板を乗せたようなもの。
予め独特の注文の仕方(脂の量、麺の固さに独特の呼称がある)を学んできたし、
東京には二郎がある。ヤサイマシマシニンニクアブラなどなど。
まさか精神的に負けることもなかろうと思ったが
予想以上にハードでブルージーな店内の雰囲気は俺の心を折るに十分だった。
「す、すいません、麺柔らかめで・・・」
明らかに場の雰囲気が変わった。
(なんね。「麺柔らかめで」て。なんかきさん。他所モンとね。すかーん。ホークス。)
店員は「・・・ヤワで?」と聞き返してくる。
「あ・・はい」
もう最悪だ。机に突っ伏して自らの情けなさに頭を抱えていると、
向こうのテーブルのヤクザっぽい恰幅のいいオッサンが近寄ってきた。
「兄ちゃん、このストラップ、なんね?」
完全アウエーで失態を演じた上に、携帯電話につけていたコンサドーレのストラップを発見されてしまった!!
(こいつ札幌やと。なんかこいつ。九州独立。ジョージア。ありみつ。)
今や長浜屋は昼前とは思えないヤバすぎる雰囲気だ。
オッサンは替え玉をバリカタで注文し、尚も俺の隣の席で睨んでいる。
死を覚悟したその瞬間、オッサンの顔、まさに破顔一笑。
焼け過ぎて硬くなった皮膚に刻まれた年輪が、ますます深くなるほどに
それほどに頬を上げ、目じりを下げ、笑っている。呆気に取られる俺。
「今夜はよか試合にしような」
オッサンはそう言うと、脊椎がどうにかなる程の強さで俺の背中を叩いた。
鼻からヤワ麺を出し、咽こむ俺。緊張が解けた涙と咽こんだせいで顔はまたベトベトだ。
オッサンは替え玉を持ってきた手鍋をそのまま店員から引ったくり、丸呑み。
口をモゴモゴしながら、やや店内を振り返りつつ、不器用なウインクをして去っていった。
物凄い音と共に一台のコンボイが駐車場から走り去る。その音、まさに山笠(聞いた事ないけど)
ここは博多。人情の街。
敵は強大だが、負ける訳にはいかないなと、俺は思った。
※斜体部分はフィクションです。
2005年11月13日
福岡行きの朝は早い。早いなんてもんじゃない。超早い。
何せ日が昇ってない。ヤバすぎ。植物すら光合成できないなんてヤバすぎる。
何せ鶏も鳴いてない。街に響く音は
仕事に向かう暴走ダンプカーの走行音ぐらいのものである。
フジテレビは試験電波で、テレ東は深夜映画のクライマックスぐらいの時間。
そんな寝静まった街を、一人でかいバッグを抱えて電車で移動する。
周りは酔客や釣りに行くおっさんなどカオス極まりない。
今日は決戦だ。血で血を洗う血戦だ。
隣でいちゃつくカップルにやられつつ、テンションをあげていく。
負けるわけには行かない。
羽田に到着し、挫けそうになる自分に気がつく。
畜生、負けちゃ駄目だ。
今日は、いや今日に限らないが、ともかく今日は絶対に勝たなければならない。
勝てればいい。じゃない。マストだ。マストに行きマストだ。照瑛だ。筋肉番付だ。
絶対に勝たなければいけない試合がそこにあるのだ。
そう思っていると、不意にあの歌が口をついた。
バモ札幌 行こうぜ 我らと共に 自らの力信じ 熱い気持ち見せて戦え
止まらない。
バモ札幌 行こうぜ 我らと共に 自らの力信じ 熱い気持ち見せて戦え
段々大きくなってきた。
バモ札幌 行こうぜ 我らと共に 自らの力信じ 熱い気持ち見せて戦え
もう止められない。
バモ札幌 行こうぜ 我らと共に 自らの力信じ 熱い気持ち見せて戦え
搭乗待合室の人たちは何事かと俺を見る。
空港警備隊の屈強な男二人が走ってきて俺を取り押さえた。
だが止める訳にはいかない!潰れる喉でなおも歌い、叫ぶ。
大男に組み伏され、涙と鼻水と血反吐で汚れなおも歌う俺。
しかし喉を押さえられては声も出ない。
もう駄目かと思ったとき、誰かが歌った。
バモ札幌 行こうぜ 我らと共に
自らの力信じ 熱い気持ち見せて戦え
それは、徐々に人数を増やし、大きな輪となり、雄大に羽田を包んだ。
ふっと俺を抑える力が抜けた。
警備員に迷惑をかけた事を謝り、一般客に頭を下げる。
余りに感動的な光景に、俺は搭乗を許可された。
搭乗待合室の一般客と共にWe are SAPPOROコールを繰り返し、搭乗。
羽田を発つ。轟音に包まれる機内で、俺は自然と敬礼していた。
勝って帰って来ます。
差し込む朝日は涙で歪んでいた。
※斜体部分はフィクションです。
プロフィール
厚別在住35歳。 よく食べ適当に働きやたら寝る #####FORZA4SODAN##### いつでもどこでもいつまでも 全 身 全 霊 全 力 で 札幌と曽田雄志を応援します。 曽田さんは引退したけれど、 だからこそ彼の愛する札幌を 全身全霊全力で応援し続けます この度札幌に引っ越しました。
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