数字で見る2016年

2016年12月03日

 さて、前回の記事では2016年新加入選手がどのように戦力となりえたか、また若手選手の活躍による戦力の底上げについて触れた。そこで今回はざっくりと2016年のチーム戦術について振り返りつつ、来季への課題について考えていきたいと思う。
 何といっても今季のベースは堅守を誇ったクソンユン、増川隆洋を中心にしたDF陣だ。無失点試合は20試合。過去J2優勝を果たした2001年、2007年とも無失点試合は20を超えており、データ通り優勝しての昇格となった。ただ彼らの仕事は「守る」だけではない。そう、彼らが攻撃の起点となったことで、前線に陣取る都倉賢やジュリーニョらFW陣の爆発につながったのだ。左CBの福森晃斗は言うまでもなく、中央に陣取る増川、そしてシーズン途中にサガン鳥栖からレンタル移籍で加入し右CBとして定位置を確保した菊地直哉、彼らのフィードから数多くのチャンスが産み出された。どうしんウェブコンサドーレJ2優勝特設サイトに掲載されている吉原宏太氏へのインタビューの中でもこの点に言及されている。以下に内容を引用させていただく。「福森選手の左足の精度は説明不要ですが、増川選手も菊地選手も、長い距離で正確なボールを蹴ることができます。そうなると、慌ててボールを奪いにいかなくても、一歩下がって相手に合わせながら、じっくり守ることができるため、守備も安定します。」
 これを裏付けるデータがある。たびたび参考にしているFootball LABに掲載されている9月8日付のコラム、「北海道コンサドーレ札幌・首位を走る原動力は」で紹介されている「タックルのエリア比率とボール奪取ライン」のデータがそれだ。タックルをしたエリアを見てみると、ディフェンシブサード(ピッチの全長を3つに分割し、自陣に最も近いエリア)での比率はリーグでも最も高い60.1%。2位が56.4%で讃岐、3位は55.2%の横浜FC、ようやく5位に54.2%でセレッソ大阪が顔を出してくる。また、ボールを奪取した平均位置ではゴール前から32.3mとほぼディフェンシブサードとミドルサードの境目にあたる。これはJ2で4番目の低さである。これは1位が讃岐の30.8m、2位が北九州で31.8mと押し込まれているチームが上位を占める結果となっているが、その中に首位のチームが加わっているのは異様に映る。しかし、下位チームと違う点が自陣PA内での空中戦の勝率だ。勝率57.2%と押し込まれても増川を中心としたDF陣が最後に攻撃を跳ね返すことができた。押し込まれたところでボールを奪取し、前線へロングフィード一発。敵陣に攻め残っている状況がカウンターの餌食に最もなりやすいのは自明の理だ。この効率的でシンプルなカウンターの起点となったのがDF3人衆だったというわけだ。
 また、氏は「適当にクリアすることも少なかった。『一つのクリアは、10本のパスをつなぐ機会を失うのと同じ』という言葉があります。ビルドアップが下手なチームは守る時間が長くなり、失点も増えます。」と今季の奮闘ぶりを讃えながらも、今後J1で戦ううえで重要なポイントも浮き上がらせてくれた。いかにJ2でできたことをJ1でも同じように行うか。これが今後の課題になってくるだろう。
 攻守の「守」の部分に目を向けてきた。であればこちらもカウンター。福森からのフィード受ける「攻」の部分を掘り下げていくとしよう。先ほども触れたが、今年のコンサドーレの基本スタイルは「堅守からのカウンター」と言える。どこのチームも突き詰めれば「堅守からのカウンター」となるのだが、今年はその精度が高かった。それを示しているのがリーグ2位の得点数であり、二桁得点者3名というチーム史上初となる快挙達成である。開幕前に漠然と思っていたのが、前線のFW2人が合わせて30点取れれば昇格できるかなという夢物語だった。2人合わせてというトコロがミソで、誰かスペシャルな点取り屋が爆発するのではなくコンスタントに2人して得点を重ねていく点を重要視していたのだ。そしてこれが叶ってしまった。都倉19点、ジュリーニョ12点、内村11点、ヘイス7点…。チーム編成に携わった三上GMもこれほど上手くいくとは考えなかったのではないかと思うほどだ。この得点源の分散は無論いい面に作用する。序盤から快調にゴールを積み重ねてきた都倉が、9月11日の群馬戦から11月3日まで7試合2か月近くゴールから遠ざかってしまう。その間の成績は2勝2敗3分け。エースの不調とともにチームの成績も低迷してしまったが、その中でもヘイス2ゴール、ジュリーニョ2ゴール、内村1ゴールとドロー沼に入り込むことなく勝利をもぎ取ることができた。やはり大きかったのはジュリーニョの加入。彼のおかげで故障明けの内村をベンチに置くことができ、ベンチワークの選択肢を増やすことになった。内村本人としては全試合先発出場を目指していたと思うが、ベンチに置かれることで負担軽減にもなり結果として全試合出場につながったのではないだろうか。
 ここでもFootball Labのデータを参考に今年のコンサドーレの攻撃面を客観的に見ることとしたい。開幕前から野々村社長がこだわっていた「ゴール前のクオリティ」、これがどのように改善されたか。そこを「チャンス構築率」・「1試合における平均ゴール数」,「シュート数に対するゴール決定率」、「総ゴール数」の4つの数字から確認することにしよう。

年度 チャンス構築率 平均ゴール数 決定率   ゴール数   
2013 10.4% (9位)       1.4 (6位)       9.5%(7位)    60 (7位)
2014 9.7% (12位)    1.1 (14位)     8.4%(11位)  48 (15位)
2015 10.9% (3位)     1.1 (7位)       7.8%(11位)   47 (8位)
2016 10.7% (5位)       1.4 (3位)      10.8% (2位)   65 (2位)
※()内はリーグ順位

 J2で戦った近4年のデータを列挙したものが上記のデータになる。チャンス構築率の高さの割にゴールに結びつかなかったここ数年の苦闘が数字から見て取れる。昨年と比較して飛躍的に伸びているのはやはり「決定率」。3%の向上というのは簡単にできることではない。チャンス構築率を維持したまま、「ゴール前のクオリティ」を上げることができた、その証左である。最後までプレーオフ圏内を争っていた2013年は比較的今年と似たような数値が出ている。ただこの年はイチかバチかというところがあり、引き分けに持ち込めず負けてしまう試合も多かった。その点から攻守ともに秀でていた今年のチームはやはり優勝チームにふさわしい成績を収めたと考えられる。そしてこの「決定率」向上に貢献したといえるのが、都倉賢・内村圭宏・ジュリーニョのコンサドーレ史上初3名の二桁ゴーラー達だ。
 都倉賢。1986年生まれ、30歳。187cmの体格を活かしたポストプレー、フィジカルの強さを生かした長身から繰り出すヘディングと左足でのシュートが武器。今季19ゴール、7アシスト。J2ゴールランキング2位。決定率15.1%。(昨季10.7%)
内村圭宏。1984年生まれ、32歳。スピードに乗ったドリブルとDFラインの裏をつく飛び出しから得点を量産するストライカー。今季11ゴール、2アシスト。J2ゴールランキング19位タイ。決定率16.2%。(昨季11.5%)
ジュリーニョ。1986年生まれ、30歳。独特のリズムに乗ったドリブルで相手ディフェンスラインを切り裂くドリブラー。今季12ゴール、3アシスト。J2ゴールランキング13位タイ。決定率15.8%。
  彼らなくしてゴール前での精度改善はならなかった。そして彼らの存在が「堅守速攻」の軸にもなっていた。その根拠となるのは「ボール支配率だ」。ポゼッションサッカーが持て囃される様になって久しい。そんな中、今季のコンサドーレの支配率は50.3%。これがどの程度の位置にいるのかと言えば、22チーム中10位である。トップのレノファ山口で57.2%。昇格のライバルとなったセレッソ大阪が53.4%で3位。爆発的な攻撃力で2位に滑り込んだ清水エスパルスが51.8%で6位となっている。比較的相手にボールを持たれているコンサドーレが強みにしていたのが、パスの成功率である。少し前のデータになるが数値は75%を超え、上位4チームに食い込んでいる。カウンター攻撃の成功は前線の選手がカギになる。このパス成功率の高さは前線で頑張る彼らが的確にボールをキープしてくれた結果だろう。
 このカウンターが手詰まりになってしまった時、チームを救ってくれるのがセットプレーだ。今まで攻守両面で弱点となっていたセットプレー。今季はこれが劇的に改善された。「守」では増川隆洋。「攻」ではそう、福森晃斗だ。直接FKで3点、そしてアシストは10と彼の左足から13ものゴールが産み出された。川崎フロンターレから完全移籍が秒読みとなっている若きレフティーの存在はチームの浮沈を左右するまでに高まっている。最終戦の消化不良は彼の不在に端を発したとも言えるのではないだろうか。
 キーマンの不在がチームの低迷につながる。このチームの好不調のバイオリズムをいかに一定に保つか。来年J1を戦うにあたって重要なのはその点に尽きる。今年はボランチの不在に悩まされた。稲本潤一の離脱。クラッシャーとして獅子奮迅の活躍を見せた深井一希も勝負の夏場に離脱してしまった。深井の離脱とともにアウェイで引き分けることが増え、そしてあの崩壊を招いてしまった。ボランチがフィルターとして攻撃の芽を摘んでいたからこそ、ウノゼロでの5連勝を成し遂げることができたのだ。そう、まだまだコンサドーレの選手層は薄い。J1に残留、定着するにあたってチームのスケールアップは欠かすことはできない。
 引用させていただいた吉原宏太氏は、来年J1を戦うにあたり「今シーズンやってきたパスサッカーが出来れば、ある程度は通用すると思います。」と今季のチームの完成度について評価していた。そのうえで「ただ、ゴールを決めるべきところで、しっかり決められるようにならないと駄目ですね。」と釘を刺す。前回J1を戦った2012年は25ゴールにとどまり、あっけなく降格してしまった。ゴールを奪うことができれば勝ち点3はグッと近づく。そこで次回は各ポジションを見直し、補強ポイントを検討したいと思う。


post by kitajin26

16:34

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