2016年07月09日
夏の大阪アウェイに良い思い出はない。初めて遠征した2011年は春先の完勝とは程遠く、自力の差を見せ付けられた。唯一の救いである古田寛幸のJデビューも、試合後のゴール裏に飛び交うサポーター同士の罵声に掻き消され惨めな思いをしたものだった。夏の大阪。陽炎立ち上る昼間の熱気が晴れることなく、時折吹くやる気のない風がその熱気を運んでくる。乾くことのない汗が肌に纏わりつき、不快指数を上げていく。目の前で展開される試合も相まってか、目の前が真っ白になるほどの激情が込み上げ爆発する。長丁場であるJ2リーグの折り返し地点を向かえ、チーム力が問われてくる時期だ。そのため今まで牙を研いでいた本命と目されていたチームが一気に浮上してくる。そんな時期。遂に雌雄を決する時が来たのだ。7月9日、キンチョウスタジアム。5連勝、4連勝。そして前節5点ずつ取り合い準備万端整えた両チームによる首位攻防戦。日が暮れてなお暑い大阪の夜に、もっと熱い試合を見せてくれることになるだろう。
と、ここまで書いたのだが…。どうにも様子がおかしい。右足関節靭帯損傷で離脱したFW柿谷曜一朗の穴を埋め、3試合連続ゴールでチーム5連勝を支えてきたトップ下のブルーノ・メネゲウが中国1部の長春亜泰に完全移籍することが決定的という報道が出たのだ。報道に間違いはないようで、すでに全体練習にも参加せず9日のコンサドーレとの一戦にも出場しない見込みのようだ。セレッソ大阪大熊清監督はトップ下の代役に関し、「経験値なら玉田が主軸だし、ソウザや関口にキヨ(清原)。満(丸岡)もいるしね」と候補はたくさんいるとばかりに嘯いたが内心はいかばかりだろうか。柿谷の全治は4週間、負傷したのは6月9日と単純計算で行けばこれから始まる後半戦に間に合う見込みではある。とはいえ回復状況まではネット記事を検索する限りは伝わってこない。コンサドーレとの試合後、下位ザスパクサツ群馬を挟んでプレーオフ圏内を狙うFC町田ゼルビア、またカマタマーレ讃岐を挟んで京都サンガFCと気の休まらない試合が続く。その緒戦であるコンサドーレ戦に「ベストメンバー」で挑めないことは悔やんでも悔やみ切れないものがあるのではないだろうか。
とはいえ首位攻防の大事な一戦である。簡単ではあるが基本陣形を紹介していきたいと思う。セレッソ大阪は4-2-3-1を採用している。4バックを採用しているチームらしく、サイドアタックが軸になっている。左の丸橋祐介、右の松田陸はクロス数ランキングにおいて、丸橋5位松田7位とそれぞれリーグ屈指のクロッサーとしてセレッソ大阪の攻撃を支える両輪となっている。彼らからのクロスを待ち構える1トップには、長身187cmを誇るリカルド・サントスを据える。長らく「電柱」として活躍する時期が長かったが、近5戦で4ゴールとポストプレイヤーとしてチームにフィットしつつあるようだ。攻守の切り替えを担うボランチは人材豊富で、序盤のセレッソを支えてきた山村和也をベンチに据える余裕を見せ付けてくれる。ブンデスリーガから先日復帰し、スケール感を増したプレーで観客を魅了する山口蛍とコンビを組むのがソウザだ。183cmという抜群のフィジカルを活かしドリブルで前線にボールを運び、長短のパスを織り交ぜて攻撃を組み立てていく。まさしくセレッソの「心臓」ともいえる選手だ。総得点は31とリーグ屈指の破壊力を誇る攻撃陣に加え、加え…。日本代表の玉田圭司、関口訓充、ジーコイズムを体現するストライカー田代有三などベンチには錚々たるメンバーが名を連ねている。恐ろしい相手である。一体何点取られてしまうのだろう。しかもアウェイ大阪、不快指数MAXでスタミナを削られJ1レベルの攻撃力でコンサドーレの守備陣は引き裂かれてしまうのではないか…。
…ザルッソ。皆様はこの蔑称をご存知だろうか?3点取っても4点取ったら勝てるんじゃとは、青黒のチームを率いたマイアミの奇跡の首謀者の弁だったように思われる。どうにも大阪の2チームは得失点の出入りが激しいようだ。笊+セレッソ=?というわけで、セレッソのウィークポイントはセットプレーとクロスの守備にある。総失点数は20とリーグ6位と決して「ザル」ではないのだが、そのうちセットプレーで8、クロスで4と計12失点。つまり半分以上をクロスへの対応で失っているのだ。実際前節の熊本戦における1失点もクロスから喫している。これは間違いなくCBの田中裕介と山下達也、そしてGKキムジンヒョンの連携ミスから起きている。前半戦を終えようかという時点でも改善が見られていないというのは致命的だ。特にコンサドーレはセットプレーに強みがあり、すでに10点と全体の3分の1強。クロスからの7点をあわせれば17点と全33ゴールのうち50%強を占める。無論コンサドーレの守備にも弱みがあり、混戦からのこぼれ球を決められてしまうケースが散見される。前節の横浜FCイバの2点目がそれだ。こぼれ球を決められたのは4と全15失点のうち4分の1強を占める。シュート数でいけばおそらくセレッソに軍配が上がるだろうという今節。いかにゴールマウスに襲い掛かるシュートをブロックした上でこぼれ球を弾き出すか、これがコンサドーレ守備陣の課題となるだろう。
以上を踏まえた上でセレッソのキーマンを挙げるとすれば、左サイドバック丸橋祐介と中国へ移籍するメゲネウに替わりトップ下に起用されるだろう玉田圭司だ。無論セレッソの「心臓」ソウザも恐ろしい存在だが、彼の存在を消すためには前述した2名を封じる必要がある。セレッソの攻撃の軸を成すのがサイドアタックであるというのは先ほども書いた。コンサドーレもクロスからの得点が多いが、福森晃斗のクロス数はリーグ39位と突出した数字ではない。これに比べてセレッソの両SBから供給されるクロス数は丸橋5位、松田7位と明らかに偏重している。今回コンサドーレの右CBには先日J1サガン鳥栖から移籍してきた菊地直哉が入ることが濃厚だ。ボランチもこなしてきた元日本代表は今シーズン出場機会に恵まれなかったものの、昨シーズンは4バックの中心として活躍しサガンのJ1残留に貢献している。まさしく実績充分であり、左の福森と同様に高い足元の技術を活かしてサイドを活性化してくれるもとと思われる。マッチアップは杉本健勇だが、その後ろでは丸橋が虎視眈々と攻め上がりの機会を狙っていることだろう。加入してからまだ間もなく、石井謙伍や増川隆洋と連携面で不安があるものの報道を見る限り、練習中に彼らと距離感やボールを奪いに行くタイミングを何度も確認し改善を図っているようだ。増川も「声をよく出してくれるし、ボールを持ったら落ち着く」と手ごたえを口にしている。試合中の調整も勿論あると思うので、前半15分まではきっちりと右サイドに蓋をするように安全運転を心がけてもらいたい。今回のスタメンにはボランチ深井一希の相棒にベテランの上里一将の起用が予想されている。前寛之の怪我は残念だが、上里には上里の武器として「展開力」がある。前線には出場停止明けでエネルギーが有り余っている都倉賢と絶好調ヘイスのモンスターコンビが田中・山下のセレッソCBコンビに襲いかかろうと舌なめずりをしている。そこに福森と上里の裏を狙うロングフィードが届けば必然とセレッソのDFラインは下がらざるを得なくなるだろう。そうなれば攻め急ぐ前線と中盤の間にギャップが生まれ、コンサドーレ自慢の「深井過労死システム」が機能する。
セレッソもう1人のキーマン玉田圭司であるが、なぜ取り上げたかと言えば彼の交代タイミングが得点のチャンスになるからだ。第20節東京ヴェルディ戦。セレッソ大熊監督はトップ下に玉田を起用し、前節徳島ヴォルティスにあわやという失態を演じてしまったチームに梃入れを図った。だがこれが上手くいかず、前半に先制点をあげたものの攻撃は低調。そのため62分に玉田に変え藤本康太を投入しボランチに入れて守備を厚くするとともにソウザをトップ下の位置に上げた。しかしその10分後に、ボランチ山村和也に代えてFW澤上竜二を投入してソウザをボランチに戻しシステムを変更するなど手詰まりを露呈した。つまり中盤における攻守両面におけるソウザへの依存度が高いため、メゲネウが抜けた今トップ下の出来が試合結果にシビアに反映してしまう結果に陥っているのだ。選手配置を弄り、連携を確認する10分間これが得点のチャンスになる。もし、今節トップ下にソウザが入ったとしたらそれは好機と捉えるべきだ。はっきり言って今年のセレッソは昨年のセレッソではない。ドイツの空気を吸ったからといって新しいチームですぐに連携が上手く行き超絶パスが繋がるわけではないのである、誰とは言わないが。油断は禁物ではあるが、トップ下が穴になってしまった今節のセレッソは厳しい戦いを強いられることになるだろう。だからこそ、コンサドーレとしてはセレッソのサイド攻撃を封じ中盤にボールを集めさせたい。コンパクトな陣形を保ち、ボール奪取からショートカウンター。これぞサッカーの王道というべき美しい攻撃を魅せてくれることを願っている。
熱い試合になるだろう。諸事情がありテレビ観戦も叶わないが、リアルタイムで観戦できないことが残念だ。残念だと思わせるような試合を見せてもらいたい。夏の関西という呪縛を振り払い、5年ぶりのJ1へ向けて正念場が始まる。現地に行かれる方は熱中症に気をつけて、全身全霊魂を選手達にぶつけて貰いたい。きっと選手たちもあと一歩が出るようになるはずだ。We’re Sapporo!!
プロフィール
98年J1参入決定戦に敗れ涙に暮れる札幌サポを見たことで、コンサ愛に目覚めた非道民。 何の因果か札幌に居を構え、試合結果に1週間のテンションを左右される日々。 いい年こいてまだ中二病が完治していない。 思い出とコンサの試合と日常をミキサーに投げ入れて、味の素で整えた文章を提供していく。 ご笑覧いただければ幸いだ。
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