2016年06月10日
「ボランチ」。ポルトガル語で「ハンドル」、「舵取り」を意味するこの戦術用語はいつの間には市民権を獲得し、「ゲームの司令塔として攻守の切り替えや絶妙なパスを送る役割」だと理解されつつある。彼もしくは彼らのパフォーマンスが試合の趨勢を左右し、ゴール裏から声を嗄らす僕らの喜怒哀楽までもコントロールする。それゆえ松本戦に宮澤裕樹が出場できなかったことが悔やまれる。たらればで発言する愚をあえて犯す。宮澤主将が出場していたならば、試合結果はどうあれ前半は最悪でも1失点で終わっていただろう。
なぜこのように考えるのか。前節の千葉戦では稲本潤一の負傷交代からバランスを崩したのは、中盤でボランチ堀米悠斗が落ち着きを欠いたからだと考えている。勿論フォローするべき上里一将がいささか観念的主観的ではあるが、ふがいなかったからだと断じることも出来よう。実際上里自身が試合勘を欠いていたと認めているのだから。それでも自身の果たすべき役割を見失い、どっちつかずの対応を取り、DFラインの前にスペースを与えてしまったのは「ボランチ」の責任である。これは松本戦でも繰り返された。この試合を動かしたのは松本FW高崎寛之だった。前半23分、コンサドーレDF進藤亮佑が与えたファウルによりFKのチャンスを得ると、ペナルティエリア角の手前でキッカー宮阪政樹からのクロスをニアサイドでフリーになった高崎寛之がうまく頭で流し込み、札幌ゴールを揺らす。コンサドーレのセットプレーにおける弱点を衝いた、ある種松本のスカウティングの妙が色濃く出た素晴らしいものだった。ファウルを与えた進藤は「クリアなど大人のプレーをしないといけなかった。(FKは)ゾーンDFの盲点をつかれた」と反省を口にする。高崎はセットプレー開始時点からフリーであり、セットプレー時にはゾーンで守るというのが今季のコンサドーレの方針であるのは重々承知だ。だが、「もし」マンツーマンであれば増川隆洋あたりがビッタリとマークし自由にさせなかっただろう。その結果別の選手がフリーになるなど弊害は勿論あるが…。また、都倉賢やジュリーニョが近くにいたが、彼をマークするまでは至らず、あっさりと他の選手に釣られフリーにしてしまった。キック直前GK金山隼樹が一声かけてチェックを促していればと思うが、映像からは金山がどのように対応したのかうかがい知ることは出来ない。昨年よく見られたセットプレーの守備という弱点が顔を出した苦い失点となってしまった。
2点目も狭い局面で押さえられず、サイドチェンジを許し後手後手を踏んだ結果の失点となった。後半セットプレーから都倉の2得点で追いついたものの、ゴール前で2対2の局面を作られるなど松本の攻撃の理想形を体現してしまった。その結果力尽き2-3で敗戦。無論、四方田修平監督は「後半追いついた後に引き分けでOKとはせずに、3点目を取りにいく戦いをした。(相手に)素晴らしいゴールを決められて負けたが、積極的に戦ったことに悔いはない。」とある程度リスクを承知で選手たちを送り出したと認めている。その上で。「局面で勝っていたこと、都倉が2点を入れて同点にしたことを評価したい」と試合を総括した。開幕から13試合で6失点だった札幌がここ3試合で6失点である。2試合連続で前半に2失点しているのが気がかりな上、サイド攻撃を起点とした失点が多く、GK金山も「クリアした後を奪われて失点している」と課題を口にしている。2試合連続で先制点を奪われ嫌が応にもリスクを取らざるを得ない状況に陥っている。どのように守備を改善していくのか、DFラインをまとめる増川はこう口にする。「苦しい時期は必ずある。こういうときに崩れないチームが強い」。失点にばかり目が行くが、攻撃陣は好調で3試合で7得点だ。決して悲観することはない。どのようにリスクマネージメントをし、最高の結果を得るか。今年のコンサドーレはこれが出来るチームだと思っている。勝利をもぎ取った松本山雅FC反町康治監督は試合後の会見で、J1で戦った昨季開幕戦を例に引き「昨季の開幕戦(名古屋戦)もこんな感じの展開で、向こうもなりふり構わずやってきて苦労したわけですが、そう思うと札幌さんはすでにJ1に値するチームだなと感じましたね。」と上から目線なのが鼻に付くところであるが、一定の評価をコンサドーレに対し与えている。古くはアルビレックス新潟、湘南ベルマーレと戦術家として率いたチームをJ1に送り込んできた彼からの評価はありがたく受け取りたい。
次の相手はV・ファーレン長崎。策士高木琢也監督はおそらく松本の戦術を参考にし、コンサドーレ対策を練り上げて札幌ドームに乗り込んでくるだろう。正念場が続くが、まだ首位である。しかも1試合少ないのも関わらずである。目の前の試合を着実に乗り越え、最高の結果を掴んで欲しい。
プロフィール
98年J1参入決定戦に敗れ涙に暮れる札幌サポを見たことで、コンサ愛に目覚めた非道民。 何の因果か札幌に居を構え、試合結果に1週間のテンションを左右される日々。 いい年こいてまだ中二病が完治していない。 思い出とコンサの試合と日常をミキサーに投げ入れて、味の素で整えた文章を提供していく。 ご笑覧いただければ幸いだ。
最新のエントリー
コメント
検索