2016年05月27日
J2に旋風が吹き荒れている。レノファ山口という名の嵐が。14節終了時点で21得点を挙げ、すでにジェフユナイテッド千葉・セレッソ大阪という昇格候補をともに4-2というスコアで打ち負かしている。J3で猛威を振るった攻撃力、もとい爆撃力は健在なようだ。
4-2-3-1のフォーメーションをベースに、攻撃のタクトを振るうのは4月度月間MVPに輝いた庄司悦大だ。チーム内でのパス交換ランキングでは上位10位までの全てに出し手・受け手として彼の名前が並んでいる。この絶対的な司令塔から放たれたパスに反応するのが2列目に控える3人衆だ。左から島屋八徳、福満隆貴、鳥養祐矢が虎視眈々とDFラインの裏へ飛び出すタイミングを狙っている。そして忘れてはならない男が1トップを務める中山仁斗だ。180cmの長身を活かしチームトップの5点を挙げている。だが前線にだけ目を向けていては山口の恐ろしさは分からない。侮れないのは両SB。彼らが前述のパス交換ランキングのトップ2なのだ。左の香川勇気、右の小池龍太。庄司がボールを受けた瞬間、チームの攻撃のスイッチが入りSB2人が走り出す。パスコースを作り出し、流れるようなパス交換で相手ゴールに迫る。まさに「全員攻撃」。恐ろしい戦闘マシーンを上野展裕監督は作り上げたものである。
恐ろしいチームである。こんなチームに決定力不足のコンサドーレは勝てるんだろうか。たった1点しか取れないコンサドーレでは先制しても追いつかれてしまうじゃないかと。…悲観する必要はないんじゃないだろうか。というより普通にすれば勝てると思っている。そう考える理由は2つある。
まず1つ目は「プレスに弱い」こと。前節0-3でV・ファーレン長崎に敗れたレノファ山口。その敗戦に関して山口DF小池龍太は「長崎さんが自分たちのサッカーに対する分析をしてきて、自分たちが掛けられたくないこと(プレス)をしてきたという印象が強いです。」と語っている。戦略家である敵将、高木琢也監督にとっては会心の勝利だったようで、「今日は山口がボールを出してくるときの動きやタイミングを考えて、対応したことがうまくはまったし、ボールを奪ってからもトレーニングでやってきたことをしっかりやってくれた。レノファのMFが下がり気味にボールを受けたときに、必ず走り出す選手がいる。そこを抑えていくとボールをとりやすい」と山口の弱点まで語ってくれた。プレーする選手が自覚しているプレスへの苦手意識。ここを衝いて勝利を収めたチームがもう1つある。第12節1-0で完封勝利を挙げたツェーゲン金沢だ。森下仁之監督は「縦のパスコースをしっかり消した中で、しっかりボールにアプローチするため、出るところは出ていく。攻撃のところも手数が掛かっていた部分があった」と語り、山口がポゼッションするときには前から厳しくプレッシャーを掛けた。ボールを奪うとアーリークロスや縦へのフィードを使い、シンプルに前線に当てて、ゴールへ迫った。興味深い点は両者とも山口と対戦した時点で最下位に沈んでいたことだ。そう、司令塔である庄司を潰してしまえばパスの出し手が居なくなり、攻撃力は半減どころか無力化されてしまう。その結果を如実に表すように、彼らが敗戦した試合は全てが無得点なのだ。
彼らが苦手なプレッシングは今年のコンサドーレの持ち味と重なる。久しぶりのホーム札幌ドームで気の抜けたプレーは見せられないはずだ。試合開始直後から激しいプレッシングを掛け、相手陣内に押し込もうとするだろう。これは願望もあるが、根拠がないわけではない。山口のキーマンである庄司はWボランチの右に入るケースが多い。勘の良い方は気付かれたかもしれない。彼とマッチアップするのが誰なのか。そう「俺らの10番」宮澤裕樹だ。今季から主将を務める彼は、攻守両面で一皮剥けた様に思われる。絶対の自信を持ってプレーしており、キャプテンとして責任を持ってキーマンを封じてくれることだろう。
そして2つ目。山口は「セットプレーに弱い」。21得点という攻撃力は確かに脅威だが。彼らは19失点している。そのうちセットプレーで8失点、こぼれ球を押し込まれたのが2点、計10点をセットプレー関連で失っている。これは失点の約半分を占めている。原因はおそらくCBにある。DFにとって身長が全てではないと思うが、身長もDFの才能のうちだろう。左CB北谷史孝は180cm、右CBユンシンヨンは183cm。他のフィールドプレイヤーに目を移しても170cmそこそこの選手が目立つ。そのためフィジカル力押しのチームには分が悪いだろう。だからといって前線の「電柱」にクロスを入れてゴールを狙おうとすると、そう簡単には行かない。実際19失点の割りにチームとしての守備指標はJ2トップの数値を叩き出している。これはボール支配率がリーグトップであることも関係しているが、タックル数2位・インターセプト数3位という攻撃の芽を摘む全員守備の意識の表れでもあるだろう。
ここでコンサドーレの得点パターンを見てみよう。セットプレー・こぼれ球からの得点は5。全17得点のうち3割強を占めている。セットプレーとなれば191cmの増川隆洋を筆頭に187cmの都倉賢、182cmの宮澤裕樹など180cm前後の長身選手が並ぶ。またキッカーの福森晃斗はすでに2度直接ゴールネットを揺らしている。このような機会を増やすためにも、内村圭宏・堀米悠斗・荒野拓馬などがドリブルで敵陣深くまで抉り、ファールを誘うようなプレーを心がけなくてはならない。両サイドを押し込み、相手ゴール近くでプレーする機会が多ければ必然と得点のチャンスも増えるだろう。
結論としては、コンサドーレとしてあえてやり方を変える必要はない。今年のチーム戦術を継続する。プレスを掛け、キーマンを潰し、素早いカウンターから試合の主導権を握る。そして先制点を取ることが出来たら、相手がバランスを崩して攻めてくるまで粘り強く対応し、その綻びをカウンターで切り裂く。この必勝パターンを継続することができれば、勝利が近づく。
1-0で続く連勝街道に一抹の不安を覚えている方が居る。株式会社コンサドーレ社長、野々村芳和氏だ。9年ぶりの5連勝にチームの成長を感じ、心安らかな日々を過ごしている野々村社長だが、苦言を呈するのも忘れていなかった。何を危惧しているのか。それは「知らず知らずのうちにチームが守備的になっていくこと」。この「知らず知らず」というのが問題らしい。先制点を挙げているうちはいいが、得点が産まれなくなると昨年のような引き分け地獄に陥ってしまう可能性がある。攻撃におけるリスク回避が先にたち、パススピードが落ち足元で貰う選手が増えることで運動量が落ちていく。この段階に無意識で踏み込んでしまえば抜け出すのは容易なことではない。こうならないために、チームに一番近い部外者として提言しているんだと社長は語っていた。
1-0というスコアは美しい。先制点を奪い、勝利を目指して攻めに掛かる相手チームをいなして完封する。追いつかれるかもしれないスリルがあり、最後まで目を離すことができない。だが、3-0というスコアも良いものだ。なにより心臓に優しい。そして3度もゴールシーンで喜ぶことが出来る。しかも完封勝利だ。完膚なきまでに相手を打ち倒した勝利といえよう。先制点を取っただけで満足しているとは思わない。常に追加点を奪うんだという意識を持ってプレーしてもらいたい。なんであれ、まずは勝つこと。おそらく心臓に悪い試合になるだろうから、皆様気を強く持ってドームに集うとしようじゃないか。
プロフィール
98年J1参入決定戦に敗れ涙に暮れる札幌サポを見たことで、コンサ愛に目覚めた非道民。 何の因果か札幌に居を構え、試合結果に1週間のテンションを左右される日々。 いい年こいてまだ中二病が完治していない。 思い出とコンサの試合と日常をミキサーに投げ入れて、味の素で整えた文章を提供していく。 ご笑覧いただければ幸いだ。
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