若手の明暗

2016年03月30日

 先日札幌ドームで行われた試合で不思議な歓声が上がった。一人の選手がフリーキックを蹴ろうとボールを据えた時、一際大きな歓声と拍手が鳴り響いたのだ。観客の目を独り占めにしたのは進藤亮佑。若干20歳のDFがなぜこんなに注目されているのか。この歓声にはそもそも裏がある。ことの発端は前節の対清水エスパルス戦。前半34分、清水ゴール正面約25m付近でコンサドーレはFKのチャンスを得た。チームのフリーキッカーは福森晃斗だったが、その彼に「僕に蹴らせてください」と迫ったのが進藤だった。「自分が蹴るつもりだった。(進藤の言葉は)無視した。」とあっけなくこの申し出は却下され、このFKを起点にコンサドーレは追加点を得ることになった。そして迎えた第5節対京都サンガFC戦。3-0と点差も開き、福森も直接FKを沈めて満足している状況でFKという場面。進藤がボールを抱えた瞬間に、笑い声交じりのざわめきと拍手が札幌ドームを包んだ。ゴールを直接狙ったブレ球でのFKはあえなく宇宙を開発し、「何かやってくれる」進藤亮佑の伝説に新たな1ページが加わることになった。
 この試合進藤だけではない。プロ初スタメンの阿波加俊太は勿論、攻守の要である3ボランチには深井一希、前寛之、堀米悠斗。3バックの左にはリオ世代の櫛引一紀が陣取る。堀米はキャプテンマークを腕に巻くなど責任重大であった。特に目立っていたのは前寛之ではないだろうか。3ボランチそれぞれ役目を果たし、チャンスを産み出していった。以前ではバックラインからの組み立ては河合竜二が担い、「どっせいフィード」が前線に供給されていた。彼のプレーを否定するわけではないが、もう少し中盤の選手が攻撃を組み立てるほうがクリエイティブなサッカーになるのではないかと思っていた。それが3ボランチこと「宮澤過労死システム」に変更して前線との連動した攻撃が見られるようになった。いわゆる攻守の切り替えスピードが上がり、カウンターの「鋭さ」が増したのだ。これは宮澤裕樹が体調不良で欠場した京都戦にもいえ、決定的なスルーパスを決めた前寛之は長い距離を走ってきた上で、あの位置取りであり、あの判断だった。開始直後のプレーにしては落ち着いている。その成長が見られたからこそ、前寛之をMIPとしたい。
 山瀬功治に年季の差を見せ付けられ裏を取られたものの、無難に今季初スタメンを勤め上げた櫛引一紀。リオ五輪代表選出のため猛アピールが必要な時期にスタメン陥落という憂き目にあっているが、準備を怠らなかったことが見て取れるような気持ちの入ったプレーをしていた。特にオフサイドライン上でパスを要求するその貪欲な姿と、その場所に走りこんでいたという攻守のメリハリの部分は現状を打破しようというチャレンジングな部分が感じられる。そのシーンでなにより驚いたのが、櫛引より先に抜け出してラストパスをもらった増川隆洋だったが…。なにより、自分の居場所は安定ではないという危機感を持って切磋琢磨している彼らの姿が眩しい。タクマといえば荒野拓馬はTVhの試合中継にゲストで参加し、解説を務めた吉原宏太と丁々発止の掛け合いを披露していた。彼も故障で出遅れているが、復帰したからといってスタメンが確約されているわけではない。彼も櫛引同様、リオ五輪代表を狙っている。眼の色を変えてこれからの試合に臨んでいくはずだ。事実29日の練習から全体練習に復帰した彼は、「しっかりアピールして頑張りたい」と闘志をにじませながら報道陣の取材に答えている。先ほどのゲスト解説として出演した際に、更なる進化を求めてDFラインの裏を突く動きについて内村圭宏の動きを参考に学んでいると語っていた。荒野に必要なのはゴールであり、目に見える結果だ。技術は持っているのだから、復帰後は師匠の都倉賢と息のあったコンビネーションを試合でも見せ付けてもらいたい。
 …さて、光差すところに影あり。明暗とタイトルをつけているのだから、暗にも触れておこう。京都戦のベンチ入りのメンバーは以下のようになっていた。控えGK、杉山哲。控えCB、河合竜二。ボランチ、稲本潤一。FW/SH、内村圭宏。FW、ヘイス。SH、上原慎也。SH、イルファン。以上7名がベンチ入りしている。神田夢実、中原彰吾。彼らの話題を聞かない。練習場に足を運ぶ時間がないので、練習での動きを確認することは出来ない。なので新聞報道などでしか近況を知ることが出来ないが、特に怪我での離脱もないような状況で彼らはベンチに入れていない。京都戦の翌日に行われたコンサドーレU-18との練習試合で、ヘイスとともに神田は2ゴールを挙げたと公式ホームページで発表があった。ひとまず何かしらかの結果は出しているようだ。おそらく彼らはイルファンと最後の1枠を争うことになると思う。にもかかわらず、この中間に怪我で一部離脱したイルファンにあっさりとベンチ入りを奪われてしまったのは痛恨事だ。U-18相手とはいえ、とりあえず神田は2ゴールという結果を出した。これに加え、どのように自分をアピールするか。進藤のようにとは言わない。言わないが、彼は自己アピールが上手い。走れるというのは大きな武器だ。ある程度サイズもあり、足元の技術もしっかりしている。この前提のうえで「何かやってくれる」からスタメンでの起用が続いているのだ。神田しかり中原しかり、「何かやってくれる」この空気を纏えるかどうか。彼らの前途に光は差すのか。この戦いからも目が離せない。


post by kitajin26

22:20

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