2016年03月22日
2-0.強敵というより凶敵とも言える清水エスパルス。そしてその本拠地IAIスタジアム日本平。その地でついに勝ち点3をもぎ取った。鬼門突破となったこの試合。思うところがあったので、振り返ってみたいと思う。
74.1%。この数値が示すデータは「先制点を入れたチームが勝つ確率」である。W杯に限定しており、しかも1930年大会~2006年大会における決勝トーナメントに限ったデータであるという但し書きは付く。加えて16チームが決勝トーナメントに進出する現行方式になった1986年大会~2006年大会に絞ると、勝率は80.7%へ上昇する。
なぜこの数字を挙げたか。それは先制点がこの試合に与えた影響が明らかに大きかったからだ。J’sGoalに掲載されている清水VS札幌のウォーミングアップコラムから大前元紀のコメントを引用したい。「(松本戦は)ボールを支配できて自分たちのゲームだったし、自分たちのほうがチャンスがあった。愛媛戦のように、引いた相手に何もできないという試合ではなかったので、あとは最後の精度だけだと思います。」また、村田和哉、小林伸二監督のコメントにも共通して出てくる言葉がある「精度を上げる」。前半15分までエスパルスはホームの利を活かし、縦横無尽にコンサドーレのDF網を切り裂いた。前線からのプレスで前寛之が繰り紛れに出したパスをカットし素早いカウンターで札幌ゴールに迫った前半4分のプレー。前半11分には札幌ボランチとDFラインのギャップを衝き、ボールを収めた河井陽介からオフサイドラインを掻い潜った石毛秀樹へ渡ったクロスボール。ダイレクトで合わせたものの「精度を欠き」ボールは無情にもゴールラインを割った。
改めて書き起こしても心臓に悪いシーンが続いている。おそらく清水サポーターは思ったはずだ、「ほっといても点は入る」と。そしてそれはプレーする選手たちにも広がっていった。「この試合の主導権は清水のものだ。」主導権を握った清水は石毛のシュート以降、じっくりとDFラインから攻撃を組み立て始める。これが監督の指示だったかは分からない。分からないが、確かなことがある。ここでプレースピードを緩めてしまったことが敗戦の遠因になってしまったということだ。
そもそも両チームの目標が違う。まず清水エスパルスがこの試合で得たいものは「勝利に伴う勝ち点3」であり「昨年5月30日以来となるホームでの勝利」だ。翻って北海道コンサドーレ札幌の目標は「勝ち点獲得」。引き分けでもかまわず、「スコアレスドロー上等」だったのだ。そのチーム相手に開始直後からプレッシャーを掛けゴールマウスを抉じ開ける寸前まで行ったにも関わらず、清水はボール狩りに来た相手FWを引き剥がしてからの「真っ当なカウンター」を志向した。その結果、気合を入れ直した宮澤裕樹を中心とする前寛之・深井一希の3ボランチにパスを刈り取られ、最悪の結末を招いた。
加えて「5cmの差」がある。単純なことだが、セットプレーにおいて重要な点は何か。それは「精度の高いキッカー」と「フィジカルに優れたポストプレイヤー」だ。コンサドーレとエスパルスのスターティングメンバーの平均身長を比較すると、5cmコンサドーレの方が高い。前半22分の右サイドからの札幌CKのシーン。191cmの増川隆洋のマークについたビョン・ジュンボンは185cmだった。そして彼のオウンゴールが先制点となる。不運な形で失点してしまった清水だったが、慌てず騒がずじっくりと攻撃を組み立てていく。だが無情にも次の1点も札幌に加わってしまう。ついに慌て出した清水は、つい先日リオ五輪予選でなでしこジャパンと同じく禁断の果実に手を出す。そう、サイドを切り裂いてゴール前にクロスを上げるというサイドアタックだ。攻撃しているという満足感は得られるが考えてみて欲しい。65分に186cmミッチェル・デュークを入れるまで前線でターゲットとなりうるのは180cmの北川航也しかいなかった。そしてあっさりと札幌DF陣に弾き返された。にも関わらず、清水はというより小林伸二監督はサイドからクロスを送りターゲットに当てるという策に固執した。186cmの電柱を投入したことから考えても、これは監督の策だったことは容易に推測できる。コンサドーレは「さぁ店じまい」とばかりに68分に櫛引一紀、79分に稲本潤一と着実に逃げ切り体制を整えていく。終わってみれば清水のシュートは8本。奇しくも清水にとっては「最後の精度」が継続課題となる悔しい敗戦となった。
これが先制点の恐ろしさだ。「最後の精度」なんて社長である野々村芳和のお題目のようなものだ。仮に前半15分までのオレンジの津波に吞まれていたら、あっさりと鬼門は鬼門のまま聳え立ち続けていただろう。過去のデータなどあてにならないと嘯いてみたいが、やはり先制点がもたらす勝利の確率はやすやすと揺らぐものではないようだ。
最後になるが、試合前にアップした記事で個人的に注目している選手として堀米悠斗の名を挙げた。得点にこそ絡まなかったものの効果的なポジショニングからパスを引き出し、マセードが控える右サイドと並び立ちサイド攻撃の起点となっていた。後半の都倉賢が自ら持ち込んだカウンターのシーンでも、ゴール前に走りこみクロスに備えるなど試合勘は鈍っていないことを感じさせた。復調してきた福森晃斗とともに左サイドで攻撃を牽引してもらいたい。
「ともに歴史を作ろう」これはコンサドーレ札幌ユースで歌われるチャントの一節である。このチャントに背中を押され、目標にチャレンジしてきた選手たちが今ピッチで躍動している。15年ぶり。初めての敵地での勝利。作ろう。塗り替えよう。「今年こそ、いくぞ!J1!コンサドーレ!」
プロフィール
98年J1参入決定戦に敗れ涙に暮れる札幌サポを見たことで、コンサ愛に目覚めた非道民。 何の因果か札幌に居を構え、試合結果に1週間のテンションを左右される日々。 いい年こいてまだ中二病が完治していない。 思い出とコンサの試合と日常をミキサーに投げ入れて、味の素で整えた文章を提供していく。 ご笑覧いただければ幸いだ。
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