本館から出張版『読書の秋』~合うか合わぬかお試しを~

2007年10月31日

 第4弾、です。今回は純文学ということに。

 人に薦めるときに、この分野の本は非常に困ったりします。相手をそこまでよく知らない場合は特に。やたらと、好みが分かれているようでして。まあ薦める方(つまり自分)もかなり偏った読み方をしているので、紹介できる作家の人数が少なかったりしていますけれど。純文学だと特に「作家買い」してしまいます。
 純文学は苦手、という人なら薦めないという選択が出来るのですが。
 初めて手を出す作家の本は、最初を少し斜め読みしてから読むかどうかの判断をした方が良いようです。

 ずっと言い忘れていましたが、このシリーズは全て日本の作家の著作で通しています。外国人作家の本は古典文学以外極端に疎いということもありますが(ハリポタも途中で飽きたクチですしねー)。

 今回紹介しようと思った本を並べてみたら、とりあえず芥川賞受賞作家の本(受賞作品含む)+春樹さんになりました。つまり、そこそこ有名どころと言っていいもののはず、です。

 って、4作しかありませんけれどね・・・。




蹴りたい背中 綿矢りさ

 長谷川初実(ハツ)は、陸上部に所属する高校1年生。気の合う者同士でグループを作りお互いに馴染もうとするクラスメートたちに、初実は溶け込むことができないでいた。そんな彼女が、同じくクラスの余り者である、にな川と出会う。彼は、自分が読んでいるファッション雑誌のモデルに、初実が会ったことがあるという話に強い関心を寄せる。にな川の自宅で、初実は中学校時代に奇妙な出会いをした女性がオリチャンという人気モデルであることを知る。にな川はオリチャンにまつわる情報を収集する熱狂的なオリチャンファンであった

 思っていたよりも面白くて、少し驚きました。著者はこの本で芥川賞を最年少で受賞しました。当時は騒がれていましたね。
 ひとりぼっちのハツやにな川の動きの描写と、友人の様子とがとても上手くかき分けられていたり、ハツがにな川を「蹴りたい」と思う感情も(解った訳じゃないのに)解る気がする。一人称で書かれているので感情移入はしやすいわけですし。
 言葉も上手くて、とても読みやすい作品でした。主人公と同じ年代、高校生や中学生に特に読んで欲しいかも。


ねじまき鳥クロニクル 村上春樹

ねじまき鳥が世界のねじを巻くことをやめたとき、平和な郊外住宅地は、底知れぬ闇の奥へと静かに傾斜を始める。暴力とエロスの予感が、やがてあたりを包んでいく。誰かがねじを巻きつづけなければならないのだ、誰かが。1984年の世田谷の露地裏から1938年の満州蒙古国境、駅前のクリーニング店から意識の井戸の底まで、ねじのありかを求めて探索の年代記は開始される

 1~3巻まで、けっこう長い作品です。村上春樹は最も有名な作品といわれている数作を読んだことがないからなのか、これが一番好き。ポップな文体と読み手を混乱させるかのようにめまぐるしく変化する状況に、かなり混乱させられました。
 突然消えた妻、彼女を探すことに協力してくれる(?)女性、近所に住む不思議な少女、主人公が以前からどうも気に入らなかった妻の兄。彼らは皆主人公の予期しない行動を起こし、物語はどんどん広がっていく。主人公の男は、その広がりについていけるのか。


インディヴィジュアル・プロジェクション 阿部和重

渋谷・公園通り。風俗最先端の街に通う映写技師オヌマには、5年間にわたるスパイ私塾訓練生の過去があった。一人暮しをつづけるオヌマは、暴力沙汰にかかわるうち、圧縮爆破加工を施されたプルトニウムをめぐるトラブルに巻き込まれていく。ヤクザや旧同志との苛烈な心理戦。映画フィルムに仕掛けられた暗号。騙しあいと錯乱。ハードな文体。現代文学の臨界点を超えた長編小説

 文庫で200ページ行かない程度の短さなのに、散々読者を振り回して強烈な印象を与えてくれます。
 特に最後がすばらしい。少々混乱しつつもそこまでの経過を「ああそういうことか」と理解したのに、最後の部分でその全てがひっくり返されてしまいます。そして結局、解らないままで終了してしまいます。解説を読むと大体のことは解るのですが。
 小説に振り回される感覚が好きな人にはおすすめ。阿部和重作品を最初に読むならこれが良いのでしょう。ただし、解説までしっかり読むという条件で。


薬指の標本 小川洋子

楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡…。人々が思い出の品々を持ち込む「標本室」で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは…。奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。

 『博士の愛した数式』のときは(もちろん面白かったのですが)綺麗な文章を書く人だな、としか思わなかったのですが。どこかで小川洋子を紹介していたときに聞いた、「気高く、どこか官能的な雰囲気」の意味がこれを読んで解った気がします。
 標本技術士の男を愛した彼女は、本当は大したことでもないかも知れない彼の行動に言いようのない不安を覚え、いつまでも彼のそばにいることを望む。そして彼のそばにいるために、ある決断をします。
 誰もが標本にいたいものを持っている。彼女が標本にしたいものとは何か。


post by zaubrer

22:25

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