本館から出張版『読書の秋』~夜長にひんやりと~

2007年10月30日

 今の季節、ただでさえ夜は冷えるので、更に冷たい思いをしたい人の方が少ないかとは思いますが。
 第3弾はホラーです。ホラーが苦手、というわけでもなければ、夜寝る前に読んでみるのはなかなか楽しい。昼間に読んでも良いのですけれどね。実際私も、真夜中にホラーを読み続けた経験がさほどあるわけでもないので。
 
 ホラーといっても、さほど恐ろしくないものもありますので。恐くないホラーも1冊は紹介しようと思います。


夜市 恒川光太郎

大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市にいかないか」と誘われた。裕司に連れられて出かけた岬の森では、妖怪たちがさまざまな品物を売る、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。夜市では望むものが何でも手に入る。小学生のころに夜市に迷い込んだ裕司は、自分の幼い弟と引き換えに「野球の才能」を買ったのだという。野球部のヒーローとして成長し、甲子園にも出場した裕司だが、弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだが―。第12回日本ホラー小説大賞受賞作

 ホラーというほど恐くない、むしろ幻想的な雰囲気のある物語。不思議な市場にあらゆる世界の住人たちが集まり、「才能」や「命」までもが売り買いされている。子供の頃そこで弟を売った裕司は一体何のために、いずみと共にまたも夜市を訪れたのか。
 終わりの(確か)20ページほどで、話の展開が一気にスピードアップします。夜市の魅力に引き込まれてみてください。
 併録されている『風の古道』も良い。実はこちらの作品の方が面白いという声をよく聞きます。


独白するユニバーサル横メルカトル 平山夢明

2006年度日本推理作家協会賞受賞作。怪談実話のスーパースター・平山夢明の恐るべき結実。絢爛たる第一短編集

 何故推理作家協会賞を受賞しているかは未だによく分かりませんが、とにかくホラー好きにはたまらない一冊、かも。気持ち悪いですけれど。何でもありです。人肉供食の話もあります。
 話数の多い短篇集なので、1つの話は短め。それなりに軽く読める本でもあります。物語はしっかりと成立しているので、そこはご安心下さい。
 やはりもっとも出来が良いのは表題作でしょう。まだ単行本を売っている書店も多く見かけるので、1話くらい立ち読みしてみて下さい(多分そのくらいならいいと思うので・・・)。


姉飼 遠藤徹

さぞ、いい声で鳴くんだろうねぇ、君の姉は―。蚊吸豚による、村の繁栄を祝う脂祭りの夜。小学生の僕は縁日で、からだを串刺しにされ、伸び放題の髪と爪を振り回しながら凶暴にうめき叫ぶ「姉」を見る。どうにかして、「姉」を手に入れたい…。僕は烈しい執着にとりつかれてゆく。「選考委員への挑戦か!?」と、選考会で物議を醸した日本ホラー小説大賞受賞作「姉飼」はじめ四篇を収録した、カルトホラーの怪作短篇集

 この作品に出てくる「姉」とは、およそ人間とは思えない猛獣のような生き物。主人公の姉への思いはとても純粋です。もちろん狂っているとしか思えませんが。
 姉を手に入れるために彼は一体どうしたのか。彼の少年時代に姿を消した幼馴染みはどこへ行ってしまったのか。そもそも、姉とは何なのか。最後のシーンには美しさすら感じる、狂気のホラー。それぞれ個性を持った他3つの短篇も傑作です(個人的には『キューブ・ガールズ』がお気に入り)。


ぼっけえ、きょうてえ 岩井志麻子

―教えたら旦那さんほんまに寝られんようになる。…この先ずっとな。時は明治。岡山の遊郭で醜い女郎が寝つかれぬ客にぽつり、ぽつりと語り始めた身の上話。残酷で孤独な彼女の人生には、ある秘密が隠されていた…。岡山地方の方言で「とても、怖い」という意の表題作ほか三篇。文学界に新境地を切り拓き、日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞を受賞した怪奇文学の新古典

 貧しい村で、生まれた子を殺すことを生業とする家に生まれ、村人たちからは必要とされながらも疎まれて暮らした少女時代。岡山弁で語られる、リアリティのある女郎の身の上話は、読み手の神経を過敏にしていきます。
 そして、最後に彼女が明かす秘密によって過敏になった神経は一気に凍り付く。
 恐怖感を増幅させる方言の使い方やじわじわと染み込んでくる物語が秀逸。人間の生々しい恐怖を感じられる一冊です。


post by zaubrer

18:29

その他 コメント(2)

この記事に対するコメント一覧

かんち

Re:本館から出張版『読書の秋』~夜長にひんやりと~

2007-10-31 12:35

「ガリレオ」にコメントありがとうございます。 Zaubrerさん、かなりの読書家のようですね。 私も遙か昔、中高生の頃、読書三昧の日々を送っていました。手当たり次第に読んでいました。 今は、時々、村上春樹と奥田英朗を読む程度です(苦笑)「容疑者Xの献身」は、読みたいと思います。 本館の方も拝見しましたが、Zaubrerさんは私の娘と同じ学年でした。 もうすぐ、修学旅行ですね。楽しんできてください!

Zaubrer

Re:本館から出張版『読書の秋』~夜長にひんやりと~

2007-10-31 21:33

コメント、ありがとうございます(こちらこそ、です)。 最近、読み過ぎて勉強時間が削られている気がするのは考え物です・・・。はい。 春樹さんは何故か代表作を避けるようにして読んでいて、『海辺のカフカ』などに手をつけようとしてなかなか出来ていないという状態が続いています。『ねじまき鳥』が好きですね。 奥田さんは、とにかく『空中ブランコ』を読んでみたい。こちらもなかなか・・・です。 原作のガリレオシリーズは古畑任三郎パターンですよ。最初に殺人シーンが出てきて、犯人も分かりますので。 修学旅行、出来る限り楽しんできます。旅行記は本館で出来たらアップしますよ。

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