西部本×2「クロニクル」と「最高峰」

2008年10月02日

スポーツナビなどでおなじみの西部謙司氏が最近戦術本を2冊出したとの事。さっそく買って読んでみました。

①サッカー戦術クロニクル戦術に関してはこの本が最高峰―これぞサッカーの「戦術学」全世界30クラブ解体新書

参考記事:西部氏インタビュー@サポティスタサッカー戦術クロニクル」は目次を見れば分かるとおり、ミケルス&クライフの74年オランダ代表を中心に、黄金期のアヤックス、サッキのグランデ・ミラン、"ドリームチーム"バルサ、といった、サッカー戦術の歴史に革命を与えたチームを紹介しています。
ブラジルの「混沌と秩序」や、マラドーナ・ジダンといったエクストラな選手のいるチームの戦術についても述べられており、まさにクロニクルといってよい内容と思います。
その辺りの本流は既に知っていた事なので個人的にはあまり新味のある情報は少なかったが、コンパクトにまとまっていて楽しめます。復習にもちょうど良いです^^
少し残念なのはベッケンバウアーに代表されるドイツの3-5-2についての記述がないことと、ベンゲルのアーセナルに対する分析が中途半端というかちょっと変なこと。


「戦術に関してはこの本が最高峰」は90年代後半から現在の各クラブの戦術を紹介。ドイツやフランスのなかなか目にする機会の無いクラブもあり、とても興味深く読みました。
「戦術クロニクル」と内容が若干かぶるのは仕方ない気もしますが、だったら発売日を少しずらせば良いのに、と思ってしまうのですが。。。
ところで、本書の最大の発見は共著者の浅野賀一氏。なかなか鋭いタッチの文体で分析されており感心していたのですが、巻末の略歴を見て思わず納得。
なんと、あの「variety football」の中の人だったとは!いやー、久々の再会?でした。現在は「footballista」紙の記者をしているとの事。
でもって後で調べたら、ボリスタの弟分の無料雑誌「footies!」の編集長をされているそうですね。リンク先からデジタル版が手に入るので、さっそく読んでみました。対象は高校生のサッカー部ということですが、一般人?が読んでも十分に面白かったです。


post by roque816

19:43

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書評あれこれ

2008年01月28日

オフシーズンなもので、すっかり報知新聞しております。。
所で、ミランのパトはすごいですね。別項であらためて書きたいと思いますが、第一印象はカカとロナウドを足した感じです。

・「夕張への手紙」byナタリア・ロシナ
↓著者ブログ
http://www.it-for-all.com/health-for-all/blog/

一言で言うと「北海道人のダメな所を痛いほど的確に指摘した本」です。こう書くと反感を持たれる方もいるかとは思いますが、東京出戻り組の私としてはアクションが遅い(起こさない)北海道人を歯痒く思う所もありますので、あえて厳しめに書きます。
要するに北海道経済がダメなのも、道民に「経営のセンス」がないからなんですよね。自らにカイゼンの意識がないのに文句を言うのであれば、ナタリアの言うように勉強をし、アクションを起こす事です。個人的に一番グサッと来たのは「本を読んで何も行動しないのは、お金持ちか馬鹿。」というフレーズ。
とにかく、本屋で立ち読みをしてみてください。読まなきゃ損!


・「決断力」by羽生善治

大学まで将棋の世界にどっぷり浸かっていた私ですが、就職してからはさっぱり遠ざかってしまっていた事もあり、昔を懐かしく思い出しながらの読書でした。思う所あって今再読しているのですが、やはり勝負に対する羽生氏の感性・考察は抜群ですね。勝負の心構えを説いた本としては歴史に残るべき名著という評価をしておきます。
私のようにサラリーマン生活になってしまうと「勝負力」よりは日々安定したパフォーマンスを出す事に重点が置かれてしまいますが、いざというときの「決断力」を鈍らせないために準備を怠る事がないようにしないといけませんね。


・「「三十歳までなんか生きるな」と思っていた」by保坂和志

保坂氏の最新エッセー集。保坂信者としては、もちろん文句のない内容でした。敢えて言えば、前半の方はちょっと新しめというか、今までよりも一般人には取り付きやすい「軽め」の切り口で入った印象。後半になるに従ってだんだん「いつものホサカ」に戻るので、安心したようながっかりしたような。。
全く読んだ事のない方は「ほぼ日」のこの辺の記事あたりから読むのがわかりやすいかと。
文章を書く事に多少興味がある人は「書きあぐねている人のための小説入門」なんかも面白いかと思います。


・「メキシコの青い空」by山本浩

あの山本浩(元)アナが自身の数々の名実況を振り返る本。まあ詳しく説明する必要はないでしょう。素晴らしい本です。


・「シュガー社員が会社を溶かす」by田北百樹子

ぱらぱらと立ち読み。一言で言うと、私は人の悪口で稼ぐやり方は嫌いです。
中身はようするによくある「若者劣化説」ですな。こういう本を安易に鵜呑みにしてしまうと、それこそあなたも「シュガー脳」になりかかっていると考えた方がいいかもしれませんぞ。それを防ぐ方法は、ナタリアの本を読んで見る事ですかね。


post by roque816

21:27

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「ウェブ進化論」と「ウェブ人間論」

2007年03月02日

「ウェブ進化論」はだいぶ話題になった本なので、読んだ方もいるかと思います。著者である梅田望夫氏が長年シリコンバレーでIT企業の最前線に関わってきた経験を生かして、今日の「web2.0」を読み解いた内容です。
詳しい内容は同書を読んで頂くとして、要点は①グーグル革命について、②ネットの「こちら側」と「あちら側」、③オープンソースの果たした役割、という所でしょうか。21世紀に生き、ましてやブログを書いている人間であればw必読の書です。多少おおげさな表現もありましたが、そこは梅田氏もわかっての事のようです。「web2.0」という得体の知れないものをここまでクリアに理解できる内容になっているのは、素晴らしいの一言です。

「ウェブ人間論」は、前書を読んで感銘を受けた作家の平野敬一郎氏が梅田氏との対談を行ったもの。ただ、本書については辛口の評価にならざるを得ません。序盤の第1,2章は何とか読める内容ですが、肝心の第3章以降でインターネットと文学の未来を語る場面では、平野氏はただひたすら梅田氏の論理に圧倒されてしまいます。大学在学中に芥川賞を取った平野氏ですが、この程度の見識しか持っていないのであればわざわざ対談をして、しかも本にする意味が果たしてあったのでしょうか?私の印象では、ただネットを少しかじっている文学好きの青年という以上の言葉を話せていませんでした。
従って本書は梅田氏が語るネット、文学、、、の現状と未来をうなずきながら読むしかなくなってしまうのですが、特に興味深かったのは次の2点。
①始めに「ウェブ進化論」の構成をネットで公開しようとした読者に対して、著作権を理由に差し止めをお願いしている事。オープンソースの功績をこれだけ語っている人でも、やはりビジネスがからむとそういう方向になってしまうのだな、と。海賊版への対処なら話は別ですが、基本的に丸写しでなければOKかと思うのですが。尚、本の未来については私もかなり楽観的ですが、映画や音楽については正直わかりません。PCの普及によって内容をあまりにも簡単にコピーできてしまうのが致命的に痛いですね。
②最後の方で「羽生氏が『量をある程度集めると質に転化する』というのが彼のテーゼ」と述べている事。インフラの拡充に伴う今のインターネットの隆盛ぶりからして、これは自明の事だと思っていたのですが、あくまでも羽生氏とは違う見解を梅田氏はもっているのでしょうか?


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21:34

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「小説の自由」 保坂和志著

2006年12月22日

まずは、前回の訂正から。西嶋ひろくんは出場停止だそうですね。代わりは曽田でしょうか。後、甲府のジョジマールもビザの関係で帰国したとの事。代わりは山崎コータローでしょうか?ということで、明日は両チーム日本人のみのガチンコ対決となるようです。
亀田君は無事に初防衛を果たして、喜んだ人もがっかりした人もいるでしょうが、ともかく今回はちゃんとボクシングにはなっていましたね。我が家では亀田君がパンチを打つ時の「シュシュシュ!」という口癖?が話題になっていました。

「人はナボコフを読むことはできない。ただ再読することができるだけだ。」と書いたのは若島正であり、ナボコフという作家を端的に表した名文であると思う。といっても、私はまだナボコフをあまり読んだ事がないので、若島氏のフィルターを通して「感じる」ことしかできないのだが。。。小説の読み方とは若島氏のナボコフ論的な読み方こそが「正しい小説の読み方」と思いこんでいたのだが、ナボコフは著者の読み方とはまた違うアプローチで、「小説」に現れてくる「何か」を表現しようとしたのかもしれない。将棋ファンの私としては、この二人が将棋というゲームに関わっているおかげで彼らの文章と出会えた訳で、これは偶然なのか必然なのか、とにかく僥幸と言うほかない。
元々は日曜日にBS-2でやっている「週刊ブックレビュー」を見てこの人の作品に興味を持ったのだけど、実際に読み出してみると耳が痛かったり頭が痛かったり、とにかく私のこれまでの思考の根底を掘り返してくれる文章である。といっても、まだ途中まで、正確には255Pまでしか読んでいないのだけれど、この本の帯に書いてある「小説は、読んでいる時間のなかにしかない。」という事を著者自身の思考過程のまま実直に書いていてくれているので、初めて触れる深い思考に戸惑いながらも何とか読み進める事は出来る。
とにかく、「小説を読む人も、書く人も、もうこの本なしに小説を考えられない!」というのは私の実感と同じで、それは世界の隅っこでこのように駄文を連ねている身にも届いた、著者からの静かなるメッセージだと思う。


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23:34

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「先を読む頭脳」 by羽生善治

2006年10月28日

すっかりサッカー専用ブログとなってしまったので、たまには書評でも。(下記と同内容をbk1に投稿しました。)

本書は「将棋」というゲームについて、現在最高峰の棋士である羽生善治氏と、人工知能と認知科学の研究者である伊藤毅志氏、松原仁氏がそれぞれの立場から本質に迫った本である。
将棋になじみのない方には少し取っ付きにくい本であるが、羽生氏がプレイヤーとして語る内容を、コンピュータ将棋の研究者でもある伊藤氏・松原氏が科学的な解釈を加えて解き明かしていく本書の形式は、非常に整理されて理解しやすいものとなっている。

中でも興味深いのは、羽生氏が少年時代にどのようなトレーニングをして強くなっていったのか、そして将棋界のトップにいる現在はどのように先に進もうとしているのかを語っている点である。
将棋という一つのゲームで「上達する」ために努力する事は、どのような方法が「効率的に学習できる」かを学べる事になる。具体的な内容は本書を読んで頂くとして、この学習方法であればどんな分野でも応用が利き、「効率的な学習」が実現できるのではないかと思わせる内容だ(さらに科学的実証も加えているので尚更である)。
更に、将棋界史上最強である羽生氏が見ている世界やこれからの目標を語る言葉には、野球のイチローやスケートの清水宏保の様な最先端を行く人間でなければ語れない凄みがある。個人的にはこの節だけでも本書を読む価値があった。

後書きの羽生氏の言葉にもあるように、現在は将棋の真実に近づくと言う努力を人間とコンピュータがそれぞれ別の方法で行っている。それはトンネルを作るときに両方から掘り進めていくのに似ている。いつか両方の穴が合流して一つのトンネルが完成するのか、それともそれぞれ別の極地にたどり着くのか、今後興味深く見守っていきたい。


post by roque816

23:37

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「ゆめまぼろし百番」書評(bk1)

2006年08月15日

遙か昔、江戸時代に伊藤宗看、看寿という名人が現れた。彼らは、それぞれ「将棋無双」「将棋図巧」という傑作詰将棋作品集を後世に残し、単なる将棋の練習問題に過ぎなかった「詰め物」を「詰将棋」という芸術の域にまで高めた。
時は流れて昭和、後に詰将棋黄金時代とまで呼ばれるこの時期に、さらに詰将棋の次元を高める作品を次々と発表したのが、山田修司と駒場和男(著者)である。山田氏は1998年に「夢の華」という作品集を発表し、その名作達を一冊にまとめた(氏は今も現役で創作を続けている)。駒場氏も間もなく作品集を発表される予定だったはずなのだが、いつになっても完成したという話が聞こえてこない。未完成に終わるのかと、誰もが諦めていた頃にようやく発売されたのが本書である。本書は前掲「夢の華」と共に新しい「無双」「図巧」として記憶され、詰将棋史にとって記念碑となる作品集であろう。
本書には煙詰の名作「朝霧」「夕霧」「父帰る」等から、「六冠馬」「六法七変化」といった奇跡的な記録作、さらには著者の代名詞でもある超難解作まで、まさに珠玉の百題が収められている。将棋のルールがわかる方であれば、ぜひ一読をお薦めしたい。
尚、本書の素晴らしさを理解するのに将棋の強弱は関係ない。自力で解かなくても、将棋盤に駒を並べ、一編の映画を鑑賞するように手順を再現すれば十分である。必ずや鮮やかな煙詰に感動し、信じられない趣向や手筋に嘆息し、作者の深遠なる読みの上に成り立つ紙一重の手順に驚愕される事であろう。
著者自身の解説により、近代将棋誌に著者が連載していたエッセイ「詰将棋トライアスロン」の名文を再読できるのも嬉しい限りである。


post by roque816

22:28

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