「ゆめまぼろし百番」書評(bk1)

2006年08月15日

遙か昔、江戸時代に伊藤宗看、看寿という名人が現れた。彼らは、それぞれ「将棋無双」「将棋図巧」という傑作詰将棋作品集を後世に残し、単なる将棋の練習問題に過ぎなかった「詰め物」を「詰将棋」という芸術の域にまで高めた。
時は流れて昭和、後に詰将棋黄金時代とまで呼ばれるこの時期に、さらに詰将棋の次元を高める作品を次々と発表したのが、山田修司と駒場和男(著者)である。山田氏は1998年に「夢の華」という作品集を発表し、その名作達を一冊にまとめた(氏は今も現役で創作を続けている)。駒場氏も間もなく作品集を発表される予定だったはずなのだが、いつになっても完成したという話が聞こえてこない。未完成に終わるのかと、誰もが諦めていた頃にようやく発売されたのが本書である。本書は前掲「夢の華」と共に新しい「無双」「図巧」として記憶され、詰将棋史にとって記念碑となる作品集であろう。
本書には煙詰の名作「朝霧」「夕霧」「父帰る」等から、「六冠馬」「六法七変化」といった奇跡的な記録作、さらには著者の代名詞でもある超難解作まで、まさに珠玉の百題が収められている。将棋のルールがわかる方であれば、ぜひ一読をお薦めしたい。
尚、本書の素晴らしさを理解するのに将棋の強弱は関係ない。自力で解かなくても、将棋盤に駒を並べ、一編の映画を鑑賞するように手順を再現すれば十分である。必ずや鮮やかな煙詰に感動し、信じられない趣向や手筋に嘆息し、作者の深遠なる読みの上に成り立つ紙一重の手順に驚愕される事であろう。
著者自身の解説により、近代将棋誌に著者が連載していたエッセイ「詰将棋トライアスロン」の名文を再読できるのも嬉しい限りである。


post by roque816

22:28

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