2019年08月05日
カジノを含むIRについては、賛成・反対が分かれる状態だ(無関心層が一番多いと思うが)。IR事業者にとっては地元民の理解が必須で、イメージアップに一役かうことをドールズが期待されている。 しかし、ここで一つ考えなければならないことがあると思う。賛否の分かれるものを「賛」の方へ導く役割の一端をコンサドーレ及びコンサドールズが担うのは果たして得策なのかということである。確かにスポンサー料は魅力なのだと思うが、広く道民に愛されることを目指すクラブが道民の間で議論の分かれる事柄において、片方に加担するのはどうなのだろう?ということである。 かつてコンサドーレはパチンコ事業者にオフィシャル・パートナーになってもらっていたことがあるし、現在はホートレース協会がオフィシャル・パートナーに名を連ねている。この2つも”ギャンブル”ではあるが(パチンコは法律上は遊戯ということらしいが)、広く認知されていてテレビコマーシャルまで流れており、今現在、それらの存在について大きなネガティブな議論がおこってはいない(ギャンブル依存症対策とかの議論はあるようだが、複雑なのでここでは踏み込まない)。しかし、IRについてはそうではないのだ。 今後、誘致の議論が進んでいくと、IRの色々な面が報道などで深堀りされることが多くなるだろう。その際、「IR、やっぱりいかんな、これ」という意見を持つ人が増えないとも限らない。なぜ、そんなことを書くのかというと、IRというものについて少し調べてみると(IR推進の立場の人が書いたものを読んだ)、統合型リゾートって結局はカジノじゃんという結論に達するからだ。 参考にしたのは「東洋経済ONLINE」の記事(2014年の記事なのでちょっと古いが、『日本のカジノは高収益が約束されている~地方都市の統合リゾートも十分儲かる』というもの→https://toyokeizai.net/articles/-/46077)。 1.カジノ経営成功のカギ カジノ経営成功のカギの第一はそのエリアの個人金融資産量、第二は集客力(アクセス、アトラクションの強さ)にあるとされる。それでハードロック・ジャパンのホームページを見てみると(コンサのオフィシャルサイトにリンクが貼られている)、「日本のIR市場という項目に「1億2700万人という大人口の高可処分所得中産階級を要する魅力的な潜在マーケットです(現在の日本は格差が拡大して分厚い中産階級など存在しないと思うけど)。日本が中国の近隣に位置し、中国人観光客のお気に入りの旅行先であることもまた強力な触媒になります。」たぶんもとは英文で、その翻訳文なので、後半分部の意味が今一つわからないが、はっきり言えるのは日本人が直接的収益源、中国人=インバウンド客にも期待ができるということだろう(日本が中国人に人気なのでマカオからちょっとは中国人VIPが流れてくることを期待しているのか?) 2.IRの収益構造。 これも上記東洋経済の記事における試算だが、北海道にIRを建設した場合、以下のような売り上げおよび利益が期待できるとのこと。 売上 2000億円 内訳 カジノ:1500億円、宿泊:200億円、レストラン飲食:150億円 ショッピング・小売り:50億円、エンタメ・MICE:100億円 営業利益 500億円 北海道の試算は売上が最大で約1500億円であり、かなり開きがあるが売上げに占めるカジノの割合はたぶん、似たようなものになるだろう(全売上の70~75%?)。 3.主たるターゲットは外国人富裕層というわけではないらしい おそらく多くの人は外国人富裕層が主たる客で、彼らが多くのお金を落としてくれるのは悪いことではないと考えていると思うが、実態は次のようになるらしい。 以下も、既出の東洋経済オンラインの記事を参考とするものだが、カジノにおけるマスとVIPの構成比は、売上高ではシンガポールが4割、マカオが7割と高水準だが、利益ではそれぞれ3割、4割に低下。VIPビジネスは特定の富裕層を事業者間で奪い合う構図であり、顧客獲得コストが大きく利益率が低い。一方、マス(とはいっても一定以上の資産を保有する層)はIRの集客力を生かした、小口顧客を大量に積み上げるビジネスで、高度なIRにおいてはマスが最大の利益源となっている。日本では巨大な日本人のマス市場があり、日本人のVIP市場もある。経営、収支面において、外国人VIPに依存する必要性はない(逆に中国人VIPからの収益を重視せよと主張する人もいるよう)。(前述のハードロック・ジャパンのホームページの書き様だと日本人客が主要な顧客として想定されているよう) また、北海道に設置されるようなリゾート型IR(反対のかたちは都市型)は、海外からの観光客に対する訴求力が弱いかもしれない。そのことはニューズウィーク・ジャパンの記事からもうかがわれる(https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2018/02/post-978.php)。その内容は以下の通り。「リゾート型の方は、カリブ海などが典型ですが、観光地に建設して休暇をそこで過ごすというタイプのものです。こちらについては、日本でも北海道や九州などで熱心な誘致活動がされているようですが、私はあまり可能性を感じません。というのは、他にもたくさん選択肢がある中であえて日本で休暇を過ごすことを選ぶような層は、欧米系にしてもアジア系にしてもカルチャー志向か自然志向であって、ギャンブルの市場とはあまり重ならないからです(ちなみに、この記事では都市型はもうかる可能性が大きいとしていた)」 IRの収益源はカジノなので、カジノに興味のない客がいくら来てももうからないし、そもそもそういう客は目的地へ直行するだろう。冬、ニセコのスキーリゾートに行きたいと思う客が苫小牧のIRに宿泊するというのは、フライトのスケジュールの都合で新千歳近辺に泊らざるを得ず、かつ千歳市内のホテルが一杯という場合以外考えにくい。 また、通年スノーアクティヴィティを楽しめる施設を作るという計画もあるようだが、半年間は開店休業状態だろう。外に本物の雪があるのだから。そして、雪を求める外国人観光客は冬期、直接スキーリゾートへ向かうだろう。(そういえば昔千葉と東京の県境あたりにザウスとかいう巨大屋内スキー場があったが、あそこの収支はどうだったんだろう?) また、北海道観光、日本観光のゲートウェイになり得ると主張する向きもあるが、日本での行動についてノープランで来る客はどれほどいるだろうか(上述の通りフライトの都合で宿泊ということはあり得ると思う)。よりよい宿(ホテル)、よりよいスケジュールの交通機関のチケットを前もって押さえて置くというのは旅行者の常識だ(長期旅行をするバックパッカーは行きあたりバッタリ派が多いが)。やはり、IRのホテルを選択するのはカジノに興味がある層が中心になるだろう。前もって旅程は決めていて、メインはカジノ、ついでに観光という層が多ければ、観光の波及効果はあるだろうが、やはり上で紹介した「カルチャー志向」「自然志向」と「ギャンブルの市場とはあまり重ならない」という考え方が説得力を持つ。 国際会議の開催というものも目指されているが、他の国際会議場との競争に勝つ必要がある。また、1万人規模のライブ施設の計画もあるようだが、これは国内の客がターゲットになるだろう(これにも弱点があって、多くの客が見込める札幌からのアクセスが悪い。さらに全国からの集客が期待できるアーティストのコンサートを開催したとして、その客層が高級リゾートホテルを選択するのかという問題がある。宿泊してカジノで遊んでもらわなければもうからないというビジネスなので。ライブ会場としての収益は得られるだろうが、そんなに多くの公演を行えるわけでもないだろうから、収益源とはなりえない) 4.日本のIRはラスベガスのようなものにはならない ラスベガスには、数多くのカジノ・IRが集積し、そのため過当競争からカジノの収益性が低下しノンゲーミング(カジノ以外の分野)が発展した。おそらく日本人の多くはIRといえばラスベガスのようなイメージをもつだろうが、それはIR乱立の結果であり、日本ではIRの設置に制限が加えられているので、カジノが圧倒的収益源になる。カジノの床面積を施設の延床面積の3%に制限することになったが、やはりIRの中心がカジノであることには変わりがない。 5.IRのメリット ・カジノが莫大な利益を生み出すので、本来だったら赤字が予想され、建設を躊躇せざるを 得ないような大規模な会議場、展示会場などの施設を作ることが出来る。 ・利益から税金を納入してもらえる。 ・箱物の建設によりその業界が潤う。 ・雇用を生み出す。 ・IR施設運営にともなう需要の発生、従業員の消費等々経済の波及効果が期待できる。 ・推進派は北海道観光・日本観光のゲートウェイとして期待できるというが、上にも書いた 通り、個人的にはあまり期待できないと感じる。 6.IRのデメリット ・ギャンブル依存症の増大、治安の悪化などが懸念されいるが、そういう事態になるかどうかははっきりいってわからない(今回読んだものが推進派の書いたものばかりということもある)。ただ、IRの柱はカジノであることは間違いないので、リスクは常につきまとうと思う。ちなみに、この文章を書く際に参考にした「東洋経済ONLINE」の他の記事によると、カジノは”圧倒的な競争力のあるギャンブル”なのだそうだ。 ・大自然の中にギター型のホテルはないだろう。自然との調和という発想はないのか?(超個人的な思い)
プロフィール
札幌出身、東京在住。05年の秋からはアウェイで大旗を振っていたが、2011年末にOSCが解散したこともあり、同年限りで旗振りは引退。
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