せめて歌棄磯谷までの旅

2012年11月23日

前回のニセコと蘭越に続いて、今回は黒松内と寿都のアメダスを紹介します。

地名の「歌棄」は「うたすつ」と読みますが、昔は原語に近い「ヲタスツ」と呼ばれていました。
札幌市内の、ある博物館(のような施設)を見学に行った折、解説付きツアーの一行が近付いて来て学芸員の説明が聞こえ、「うたすて」と言ってましたよ。ぶったまげたなぁ。

江差追分の一節に「忍路高島およびもないが せめて歌棄磯谷まで」という歌詞がありますけど、この意味が一般に流布しているロマンスな説明とは全く違って、商圏の拡大を狙う強欲な縄張争いに由来していることが判明したそうです。
それでも、真相は敢えて伏せられたまま歌われ続けて今日に至っているという・・。


アメダス探訪「黒松内」の巻(2012/11/4)

蘭越から黒松内に向かって道の駅「くろまつない」に着いたらちょうど正午になったけど、かなり込んでたので食事をせずに退散しました。

黒松内の市街地へ入る手前で、朱太川沿いにきれいな崖が見えました。
露頭に迷う地層
地質の世界では「黒松内層」と命名された地層があり、ここがその代表的な露頭です。
不整合の見本もあって、ちょうど歌才ブナ林駐車公園の対岸にあるので、観察しやすいです。 

アメダスは、何かの官舎が並ぶ街角に立っていました。
レンガの宿舎
真後ろが消防署、右奥が除雪センター?のようです。

俗に4要素と呼ばれる、気温・降水量・風・日照の他に、積雪深も測っています。
角の空地

道路には近いけど、幹線道路じゃないので交通量は少ないです。
今日も人影が写らない

どんよりした小雨の天気なので、ブナ林散策などの道草はせずに寿都へ向かいます。
太陽を拝めそうもない

 
寿都湾の海岸沿いに、風車がたくさん並んでいました。
渡り鳥トラップ
長万部から寿都に向かって低地が伸びており、南東風や北西風がこの地峡を通る時に収束されて(=集められて)、強い風が吹きます。
その強風を利用して発電しようという企みですが、これらの風車は罪の無い渡り鳥を虐殺するための死刑台になっています。

種類は識別できなかったけど、強風に抗して羽ばたく鳥の群れ
どこへ行く
カモメは強風を利用してホバリングし、人間を見下ろしながら遊んでました。

低気圧の通過後なので北西の風が強く、かなり海が荒れていました。


アメダス探訪「寿都」の巻(2012/11/4)

寿都測候所は廃止されて特別地域気象観測所に変わり、庁舎も無人になっていました。奥の建物は裁判所です。
封鎖済み
ここは道内でも比較的古い1884年に開所され、最近の1989年に現在地へ移転しました。

寿都測候所で観測された最大風速の記録は49.8m/s(1952/4/15)で、これは道内全ての気象台・測候所の中でも最大の記録です。

露場のフェンスに貼られた標板
ここは特別な地域・・という意味ではない

雨雪量計と温度計と視程計
海から直だ

積雪深計:平年値で70cmくらいは積もります。
吹き飛ばされるか、吹き溜まるか

測風搭の風速計と日照計と通信アンテナ
避雷針もあるでよ

観測所の緯度・経度・標高の基準となる標石
マージャン卓か

現在地に移転する前の測候所は、この岬にありました・・と言っても岬なのか何なのか分かり難い写真ですが。
冬の荒天時には立ってられないね
突出した岬の上だから風が相当に強かったのに、内陸側に移転した後は風が弱くなり(平均風速で3m/sくらい、最大風速で10m/sくらい)、風向の特性も変わって統計が切断しました。

寿都の道の駅「みなとま~れ寿都」に寄ったら期待外れでガッカリ・・空腹になってきたけど我慢して、郷土の歴史資料を買いました。

寿都では、珍しい運動会が行われていたんですねぇ。→むしろ小屋の並んだ運動会


この記事のタイトルに使っている「歌棄」地区に寄ります。
ここはうたすつ

商家だった橋本家の屋敷があります。まるで本陣。
鰊御殿じゃないが、御殿には違いない
ここは鰊漁の網元ではなくて、流通業で財を成した家です。
その建物を活かして「鰊御殿」という旅館を経営していましたが、女将さんが高齢になったため最近になって廃業しました。

正面に掲げてあった「鰊御殿」という看板を外した後も、バス停の名前は相変わらず「鰊御殿」のままです。
泊まってみたかったね

屋敷の向かいに神社があり、「~せめて歌棄磯谷まで」と刻まれた石碑が立てられています。
波よ鎮まってくれ

その隣には船が出入りしたり繋いだりする波止場と、
サーファーも敬遠する荒波
鰊が入ったまま網を保管しておく「袋澗」も残っています。

寿都湾の方向を見返すと、先ほどの風車が見えます。
肩車より高いかざぐるま
海は今時期の低気圧でもかなりの荒れようですから、台風や冬の季節風時にはどうなるか・・。

 
少し離れた場所に「佐藤家」という網元の屋敷があります。
□十佐藤家は網元
屋根に乗せた六角窓がオシャレですが、改修中でした。(そもそも非公開)

由来を説明する看板
漁場建築はシーチクとは違う

裏手に増築した物置部屋(土蔵?)は崩壊していました。
土壁の蔵?・・お茶は土倉

 
この辺はバス停留所も鰊御殿を模してあります。
網元になった気分で待つ
後ろの家のケバいこと・・

さらに種前地区には、レンガ造りの倉庫がありました。
カーリングが出来そうな赤レンガ倉庫
旧岡田家倉庫なんだそうです。

昔風のレンガ蔵も残されており、こっちは貴重品庫だったとか。
シックな茶レンガ蔵・・蔵シック

なんだか、タイムスリップして自分が網元になったような錯覚に陥ります。←船酔いする人間が網元に?


昼食のチャンスを逃してかなり空腹になったので、最近発行された?見知らんガイド2012年版に掲載されている(←また歯周病か)、レストラン「toit vert」(トワ・ヴェール)に寄ります。
丘の上の緑屋根

「toit」は屋根、「vert」は緑という意味で、そのまんまの外観(というか命名)をしています。
今日は貸切か
正式な施設名は「黒松内町特産物手作り加工センター」というらしく、ここはずっと昔から訪れていますが、2階にレストランが併設されるようになって昼食に寄ったら混雑してたので諦めたことがあります。

天気は雨降りだし昼時もとっくに過ぎた時間帯だったので、客はワタシ1人だけの貸切状態、ワンマンショーでも披露宴でも好きなことが出来そうでしたが、お上品に食事します。

メニューの種類は多くないですが、かぼちゃグラタンとチーズサラダを所望しました。
すると、加工場謹製のベーコンのエキスだけで味付けしたスープが無料で飲めるというサービスがあり、ランチセットなどを注文するよりもお得でした。

窓の外の景色も・・雨天でなかったらさぞかし・・。
♪Les feuilles mortes ・・ by Yves Montand
スタッフの対応が良く料理も美味しかったので、お礼のつもりで加工品のソーセージを買い求めてしまい・・そういう戦略なのか。笑

道の駅「くろまつない」に併設されて、「toit vert II」(トワ・ヴェール ドゥー)という施設があり、こちらの正式名称は「黒松内町特産物展示販売施設」というそうです。
そんなに漢字をたくさん並べるなんて、フランス語の愛称とは相容れない表現だろ。


これで、後志地方のアメダス13地点は全て踏査しました。

現在までに、石狩・空知・後志・胆振・日高・十勝は(空知の赤平を除いて)全て終わり、空知の沼の沢は今日やっつけて、既訪は111ヶ所(半数以上)になりました。
八十八ヶ所巡りを超える道内百アメダスなんて、何年先になるのかと思ってましたが、要領が分かってくると1日に何ヶ所も捗るものです。

今年中に探訪するとすれば留萌中部・北部と上川北部が一番近いけれども、それぞれ日帰りで往復するのはアホらしいし、両地域を一筆書きで回ると泊りがけの旅になってしまうので、来年の課題として先送りになるかも。

渡島や檜山ならばついでの機会もありそうだけど、宗谷とか網走とか根室なんて、生きてるうちに訪れることが出来るかどうか・・未練を残して死にたくはないな。



post by 雁来 萌

22:44

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