2008年06月08日
【日本1―1オマーン】軽く助走に入った遠藤の視線は一点だけに注がれていた。GKのA・ハブシの重心がわずかに右足にかかる。もらった。右足を軽く振り抜くとボールはコロコロと転がった。逆を取られ、立ちつくす相手GKをあざ笑うようにゆっくりとラインを越える。後半8分、“PK職人”独特の一蹴りで日本は貴重な勝ち点1を手に入れた。
「自信を持ってPKに入った。緊張しない方なので、落ち着いて蹴れた。大事な場面なので決められて良かった」。重圧のかかる場面をひょうひょうと振り返った。
キックの精度は左の中村と双へき。スパイクは試合前のアップ、前半、後半と3足替えるほど足元へのこだわりは強い。ことPKに関しては中村ですら一目置き、名手の異名を取る。歩くような助走から軽く蹴るだけ。小学生でも蹴れそうな球だが、決してGKをおちょくっているわけではない。インパクトまでのわずか数秒の駆け引きが遠藤を職人たらしめている。
以前、極意について語ったことがある。「ゆっくり走りながらキーパーの足の筋肉の動きを見ている。どっちに跳ぶか分かりますから。PKは簡単ですよ」。プロで失敗したのは05年のナビスコ杯決勝、千葉戦のみ。「初めての相手なら余計に効く」。4年前の1次予選で中村が失敗したのと同じ相手に決めたのも遠藤にとっては必然だった。
左足甲を打撲した影響で万全からはほど遠い状態。まだ練習後のアイシングは欠かせないが「痛いとか言っていられない」と代表への思い入れは強い。06年のW杯ではフィールドプレーヤーとして唯一、出場機会がなかっただけに、今度こそ夢の舞台に立つために、ポジションを明け渡すわけにはいかない。
最悪の結果は免れたが、W杯へと続く道のりは長く険しい。「僕らは引き分けでは評価されないという気持ちでここに来た。勝って終わりたかった。次はチーム一丸となって勝ち点3を獲りたい」。日本が誇る右のキッカーは、すぐにタイ戦に目を向けた。
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