2009年05月11日
初めて白い蝶を捕まえたのはもう随分昔の話だ。
はたりはたりとはためきながら、ゆっくりと中空を行くその蝶を捕まえる事は、今思えば大層な事ではなかったのだけれど今となってはもう叶わない昔の話なのだ。
見れば単に白い羽を持っただけの蝶なのだけれども、目を近づいてつぶさに見るとその美しさにため息を付くほどの緻密さで、手に入れた幸運を何者かに感謝せざるをえない多幸感に僕は満たされた。
しかしおんぼろの籠に入れたその白い蝶は、囲いがあることなどにまるで気付かない様子で飛び上がっては落ち飛び上がっては落ちを繰り返し、遂にはその羽を閉じたまま動き飛び回る事を止めてしまった。
困り果てた僕はそっと籠の扉を開けると、白い蝶はゆっくりと糸で引かれる様にふうわりと少しずつ、でもためらう事もなく高い空へ溶けていった。
次の日から辛い日々が続いた。 その蝶に呪われたかのような日々が何十年と。 やがて暮らしも落ち着きいくばくかの余裕も出来た頃。
せわしなく歩いていた僕の目の前を白い蝶が舞っていた。 間合いを保ちながらたゆたゆ、たゆたゆと。
歩みを止めると白い蝶は僕の帽子のつばにふうわりと止まって、少し向きを変えるとすぐに飛んで。 飛んですぐに視界から見えなくなってしまった。 でもその後に悪い事など起きることもなく、ただそのままで。
そうそのままで。