2009年06月11日
焼尻港に別れを告げ、狭い集落を抜け出すとあっという間に森に入る。 前の日の悪天で森全体がじっとりと湿り気を帯びてはいたが、遊歩道の足下はコンクリート舗装がされていて必要以上に足下を気にする事もなかった。 そしてその湿気が、森の神聖さの一層深い裏付けとなって森を覆っていた。 森に入る間際の坂道、涼しいよりも冷たいと感じる風が通り抜けた。 霊場に特有のあの冷たさだ。
この島はオンコの島とも呼ばれるらしく、確かに厳しい気象条件の為成長を抑制されたオンコがその生命力を横に横にと伸ばしていて、それは見事としかいいようのない命の発現だった。
蛾だの毒虫だのの類いは見当たらず、頭上ではいつも鳥がさえずる。 都会ならあたりまえにある、自動車機械から発せられる絶え間ない重低音が、ない。
僕たち二人が踏む足音と鳥と森の音だけが鳴っている。 僕はもう、日常を忘れていた。 小一時間進んだろうか。 下りが続いた末に森が途切れ、視界が開けてきた。 きっともうすぐ海が見えるはず。 そして僕と息子は見えてきた景色に歓声を上げた。 夢の様に美しい、美しい景色だった。