レコンビン契約満了の背景と経緯と本人コメントまとめ

2014年01月08日

コンサドーレ札幌のレコンビンの移籍契約交渉について、
ベトナムのクラブとの交渉がとても難しいものであることが分かるなど、
いろいろ学ばせてもらった感がありますが、移籍交渉の背景をまとめておきます。


今回の移籍交渉の前提として、圧倒的に札幌側に不利な状況だったことがあります。

★レコンビン自身の背景
1)レコンビンは2014年シーズン終了までソンラム・ゲアンの契約下にある
 (=交渉相手はレコンビンではなくソンラムゲアン)
2)ソンラム・ゲアンのユース時代からの生え抜き選手
3)ユースから昇格し若いうちにソンラム・ゲアンでスターになった
4)2012年の所属先ハノイFC消滅後に行き場を失ったが、地元のソンラム・ゲアンに救われた
5)優勝争いと得点王争いの最中、最後の1ヶ月で移籍し、優勝も得点王も逃し、チームに負い目がある
6)中心選手として2014年の優勝と十数年ぶりのベトナム人得点王を期待されている
7)昨年1月に子供が生まれたばかりで単身赴任してた(ベトナム人は家族を大切にする)
8)晩年は、自分を育ててくれたソンラム・ゲアンに復帰したいという希望があった

★ソンラム・ゲアンの背景
1)ベトナムVリーグの開幕が1月11日からと、例年より1カ月以上早まった
2)ソンラム・ゲアンの中心選手が他クラブへ移籍してしまい、選手層が薄くなった
3)資金力ではVリーグで真ん中くらい
4)金が無いので、最後は金以外の部分でなりふり構わず残留交渉してブチ壊す覚悟アリ
5)やはり、ソンラム・ゲアンはベトナムのクラブであった

★コンサドーレ側(Jリーグ)の背景
1)出場機会が確約されたわけでも、多く出れる保証も無い
2)レコンビン加入後、ベトナム関連企業からのスポンサー収入が分かりやすい形で発生した
3)Jリーグ提供以外の試合中継による放映権収入が発生した
(収入面は、足元を見られるには十分な効果がありました。)

★コンサドーレ側が有利に運びうる材料
1)レコンビン自身の札幌でやりたいという意志
2)日本で通用したというキャリア
3)なんとか準備できた満額移籍金(24万USD)
(なんと、これだけ。)

代わりに選手を送り込むこともできましたが、
自国のスター選手と、活躍できるかどうか分からない日本人を天秤にかければ、そりゃ前者を取ります。
なので、これは大した材料にならず。

ここからは、札幌とソンラム・ゲアン双方の選手に対する条件提示合戦を経て、
ソンラム・ゲアン側が最終手段を投入して全てブチ壊すのか、
札幌側が移籍金上限を上乗せするかのチキンレースになったわけですが、
時間切れとともにソンラム・ゲアンの最終手段投入で終焉となりました。
札幌側は決してブレることなく、限界を超えなかったあたり、過去の教訓が活きている証拠です。
(10年前のコンサなら積んだような気がします)


ここからは、年末の動きだけをまとめておきます。
ソースは沢山あるのですが、翻訳が面倒なので、
ベトナムフットボールダイジェスト(全て日本語)に絞っておきます。

12/26
ソンラム・ゲアン(SLNA)のホー・バン・チエム社長は26日、
SLNA復帰かコンサドーレ札幌への移籍かで去就が注目されるレ・コン・ビンについて、
移籍を容認する内容のコメントを発表した。
vietnam-football.com(12/27)←Bongda+12/27

12/28午前
ソンラム・ゲアン(SLNA)のグエン・ホン・タイン会長は28日、
グエン・フー・タン監督およびレ・コン・ビンの両名を交えて会議を開いた。
それによると、同選手が来シーズン、SLNAに復帰することで、合意に至った。
(会談での発言や、その後のレコンビンコメントあり。一番まとまっているので必読!vietnam-football.com(12/29)←Bongda+2013/12/28

その後のレコンビンのコメントその2
12月28日午前中のセッションの後、グエン・ホン・タインCEO、
グエン・ヒュー・タン監督と同席し、私と一緒にプレーするよう求められた。
チームリーダーとして私が残留することに同意するものとします。
2014シーズンは私がSLNAのユニホームを着て戦う。...
Bongda2013/12/28

1/4
ソンラム・ゲアン(SLNA)は4日、
ホアンフック・インターナショナル社とユニフォームやトレーニングウェアなどの供給に関する協力契約を締結し、
KAPPA製の新ユニフォームを報道陣にお披露目した。
契約額は年間20億ドン(約1000万円)。
 SLNA復帰が決定的と言われているレ・コン・ビンも新ユニフォームの発表会に出席し、
背番号9番のネーム入り新ユニフォームをお披露目した。
vietnam-football.com(1/5)←Bongda2014/1/4


今回のエントリについて。
クラブは「終わったこと」としか言わなそうですが、
事実とメディアの情報から漏れる一部の真実から、
過程を分析して、今後の糧にする必要はあると思います。
これまでにない大きな経験をしておきながら、結果が伴わなかったからといって
反省も振り返りもしないなんて、もったいないですし、
「北海道から世界へ」というスローガンから読み取るに、
サポーターやパートナーにも「世界へ」を要求されているはずですから。


おまけ。
そもそもベトナム人ってそういうもんだよなと納得した文書のリンクを張っておきます。
ベトナムにおいて「家族」の絆は何よりも優先されます
想像以上に厳しいベトナム人社会

以下、引用。
仕事に遅れても「道が混んでいたから」、見積書の計算が間違っていても「暑くて集中できないから」などだけで、
そこには日本的な「すみません」「ごめんなさい」の一言がかけています。
あげくには、「どうしてちゃんとチェックしないの?」「あなたの指示が間違っている」と自分の失敗を人のせいにする始末。
多少なり申し訳なさそうな表情でも見せてくれれば、「仕方ないなあ」とも思えるのですが、
こうも平然と自信を持って「自分に間違いはありません!」という態度を見せられると、温和な日本人でもキレてしまうこと必至です。

ベトナム人は家族を大事にするといわれますが、裏返せば家族以外は信じられないということ。
他人にはいたって冷たいのがベトナム人社会です。
親戚・家族内は 病気や事故などのトラブルの発生時に始まりお金の貸し借りも含めて、互いによりかかっていますので、
あえて謝ることもしませんが、家族以外の人へは頑なに 謝ることを拒みます。

一見、傲慢で不遜に見えるベトナム人ですが、こうしてみると実は臆病で猜疑心にかられているとも言えます。
特に、自身が「攻められている」「追い詰められつつある」と感じる際には周りの目も気にせず怒鳴り散らすなど
感情をさらけ出す場面も見られます。


日本人(道民)の商慣習や常識だけで、今回の顛末を捉えると、得られるものは少ないでしょう。
「北海道とともに世界へ」というスローガンが泣いちゃいます。


この記事に対するコメント一覧

フラッ太

Re:レコンビン契約満了の背景と経緯と本人コメントまとめ

2014-01-08 11:13

 ベトナムの英雄と称されるのでキングカズのイメージを強く持つのですが、  クラブに対する恩返しという点ではマリノスの中村俊輔と似たような境遇とも言えそうですね。    もともとゼニカネの問題でも不利な状況にあった上に、「何が悲しゅうて出られるかどうかもわからない海外クラブにウチの主力を出さにゃならんのだ!」とちゃぶ台返し上等な強硬手段に打って出られてしまった。    ゼニカネの問題以外の要素が大きく影響した(ゼニカネの問題として収斂できなかった)のとベトナム、ソンラムゲアンにおけるレコンビンの存在の大きさが今回の結末の原因といったところでしょうか。    コンサにとって一番拙いのはせっかく築いた航路を断たれてしまうことと同時にトンビに油揚げを攫われる事態を避けること。レコンビンの再獲得は現実的ではないでしょう。別れ方が悪くコンササポがあまりいい感情を持っていないし、再獲得できるころにはコンサの側で必要な状況にならない可能性が高いでしょうから。    三上GMは選手獲得を第一に考えるでしょうし( それ故に一歩引いた見方がしにくくなるというのもある)、ノノ社長は戦略面を考えるでしょうが、どちらも海外戦略だけを考えられる立場にはないのがつらい。海外戦略室みたいなセクションが作れれば理想ですが結局マンパワーが足りないって話になるんですよねぇ…。

sca

Re:レコンビン契約満了の背景と経緯と本人コメントまとめ

2014-01-08 12:57

フラッ太さん、コメントありがとうございます。 私の言いたいことの大半をうまくまとめられてしまいましたw >ゼニカネの問題以外の要素が大きく影響した 今回の移籍交渉は金と誠意と選手の意志だけで移籍できるほど甘くないんですよね。 交渉先クラブが何に困っていて、それを解消できる提案ができればよいのですが、 如何せん難儀な課題が多過ぎました。 >海外戦略室みたいなセクションが作れれば理想ですが結局マンパワーが足りないって話になるんですよねぇ…。 今回の敗因の一つはご指摘のとおりです。 現地に張り付いて交渉して畳み掛けられるくらいの人材がコンサにいない。 金があれば短期でもコーディネータなりエージェントなり雇うはず。 で、いつもの通り「お金がない」に帰結してしまいます。

知々

Re:レコンビン契約満了の背景と経緯と本人コメントまとめ

2014-01-09 08:24

「お金が無い札幌だから」というより、 他クラブもそこまでのリソースを裂けない現状では、 Jの海外戦略セクションがコンサルティング的に 向こうとの橋渡しをすればいいかと。 他クラブもそうした海外セクションがなく、実際の動きが無い中、今回は他に比して、札幌がリスクをとって行動したので、 成否にかかわらず経験の蓄積が出来たはずです。 それを先に生かせばいいというところでしょうか。 エージェントの件については、現状東南アジアにルートを持ってる エージェントは国内に皆無といっていいです。 代理人活動が出来るのは選手の親兄弟、弁護士資格者のほか、 「FIFA公認ライセンス」を持ってる代理人。 ロナウジーニョのように兄がやってる場合もありますが、(元うちにいたロベルト・アシス) 通常「代理人」といえば公認代理人で、 国内の事務所では田邊さんや加茂さんのところなどが大きいですが、 彼らに限らず、国内の代理人はブラジルやヨーロッパ相手では、 選手の情報をもってたり、海外クラブに顔が利いたり、 海外エージェントたちへのネットワークがあったり、 海外の事情を理解した上での交渉力があったり、 といった手腕を持ってますが、 アジアでは韓国にルートを持ってるところはあっても、 東南アジア相手に力を持ってる代理人や事務所は現状ほぼないでしょう。 経済界、産業界、世界中で売り買いをしている商社勢でさえ ベトナムやミャンマーは未開の地なのだから、サッカー界でもまた然りです。 じゃあ、現地人で現地事情、文化や慣習に精通していつつも、 たとえば欧米や日本での留学、ビジネス経験があって国際感覚も持ち合わせて、 国際ルールに即した交渉をまとめられる能力がある エージェント人材がいて任せられるかといえば、 ベトナムリーグなんかのぐちゃぐちゃぶりを見ればその存在は自明だったりします。 かつて田邉さんがドイツにバンバン選手を送り込んでたころ、 ブンデスの手先などといわれたこともあって、 去年の今頃はうちの15番の「移籍前提で練習参加できる欧州クラブ探して」というリクエストに答え、 聞いたことも無い北欧やスイスのクラブに話をつけてネットワークの深さを見ましたが、 もしこれから東南アジアの選手が日本に多数来るような状態になれば、 日本、現地両方で「東南アジア選手代理人ビジネス」が勃興してくる可能性はあるでしょう。 そのうち日本にバンバン選手を送り込む「Jの手先」が現われるかもしれません。 ウチがどうこうというより、Jが東南アジア進出、選手獲得を掲げるなら、 目に見えるビジネス上の事柄だけでなく、 現地に精通しながら、FIFAルールのスタンダードに則った仕事が出来るエージェント網といった 見えない部分ではありながら必ず必要なる分野の整備も必須になってくるでしょう。 今回はこういう結果になりましたが、 札幌は現状でインフラの無いところにリスクをとったのですから評価されていいと思います。 遅れましたが、先日はコメント欄へのお返事ありがとうございました。

sca

Re:レコンビン契約満了の背景と経緯と本人コメントまとめ

2014-01-11 09:17

知々さんコメントありがとうございます。 多面的な見解をお持ちの方からのコメントは、大変刺激になります。 >Jの海外戦略セクションがコンサルティング的に向こうとの橋渡しをすればいいかと。 Jは実績作りを急いでいたので1発目は全面協力といった様子でしたが、 今回はそこまで首突っ込んでいなかったようです。 >ベトナムリーグなんかのぐちゃぐちゃぶりを見ればその存在は自明だったりします。 この辺を整備するのがJリーグが提携した目的の1つなのでしょう。 昨年の田部氏は失敗に終わりましたが、 今年は田中氏がVリーグに送り込まれていますので、 上手くいくとよいなあと思います。 >日本、現地両方で「東南アジア選手代理人ビジネス」が勃興してくる可能性はあるでしょう。 >そのうち日本にバンバン選手を送り込む「Jの手先」が現われるかもしれません。 ということは、市場が未成熟なうちに席巻するチャンスでもあるんですよね。 札幌が仲介、交渉の代理人のような業務を展開して、 新たなビジネスにしてしまう・・・なんてことを思いついてしまいました。 >札幌は現状でインフラの無いところにリスクをとったのですから評価されていいと思います。 はい。この点は、次の記事でも触れましたが、まだ力及ばなかった点はあるものの、 「この交渉の過程で得た経験は、今のところ他のクラブにはない大きな財産になりました。」 と認識しています。

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